秘密の小屋創作掲示板

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男らしくなりたい - 夢喰

2017/06/18 (Sun) 19:45:54

まだ雑な状態ですが備忘録としてとりあえずアップ。
1年以内にはきっとshape upします

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星飛馬のように全身ギブスで体を鍛えようとしたら、まだ成長期が終わったばかりだったのが悪かったのか、肋骨を傷めて、胴体が細くなってしまった。

せめて見た目だけでも男っぽく、と細くなった部分にさらしを巻く。運動してもほどけないように強く巻いたら、なぜか余った脂肪が、お腹と乳首の下に集まった。それは恥ずかしいので、乳首の上も大量にさらしを巻いて、脂肪でなく、大胸筋が盛り上がっている風に見せる。あれ、これって男装?


上半身をあきらめたので、せめて足技を鍛えるべく蹴りの練習を始める。股間を守らなきゃならないそうだ。ファールカップは見た目がアレなので、タックを試すが、上手くいかない。

タックならガードルが必需というので、男でも履けそうなデザインのユニクロ1000円を買ったは良いものの、ガードルと分かってしまうのがいやなので、太腿の部分を切り取って、ブリーフ状にする。これでシルエットは男の下着っぽいが、激しい動きをするとタックが外れる。

切り取った部分がもったいないので、それでタックを強化できないだろうかと思って、輪ゴムを連ねるようにして、2枚の切れ端をつなげて履く。あそこを後ろ向きに押さえるのと同時にタックをして、それをさらにブリーフ状のガードルでカバーして、万全の安上がりタックだ。

問題は見た目。股間に何かがあるように見せなきゃならないので、ガードルを2枚重ねて、タックした上に柔らかいピンポン球を入れて、見た目の男らしさを作る。タマへのクッションとなるので一石二鳥だ。

足腰を鍛えるべく、重い荷物を背負って階段を登る。そのせいで半年後に股関節を痛めてしまった。尻にクッションを入れるが、姿見で見ると、なんだが格好わるい。結局、尻全体をスムーズに覆うようにクッションをする。それでも、おかしい。試しに股間のピンポン球を外すと、股間がタックで消えてお陰で、かえってバランスが良くなった。

あれ、となると上半身のバランスがおかしい? 2年ぶりぐらいにサラシを止めてみたら、すっかり細い上半身になって、バランスが良くなった。いや、正直に言おう、貧乳の女の子のシルエットになったのだ。

武術家を気取って髪を伸ばしていたので、ためしに女の子っぽい感じで髪をまとめ、ユニセックスの服を着る。そして1週間後には女物のズボンとTシャツと、2週間後にはスカートを買ってしまった。

それ以来、私は興味は、男っぽい体より、女装が似合う体型を作ることに移ってしまった。ホルモンを使わずにどれだけ女性に近づけるのか? 他人を騙すのも、これまら格好良くはないか? 気になるのは、タックのしすぎで男性機能はなくなっているかも知れないことだけど。

天使の声に惑わされて:4 - 夢喰

2017/04/22 (Sat) 15:33:12

 女童声がある程度満足できたので、春休みからアイドル曲を始めることになった。昨秋の古い歌謡曲と違って、今度はAKB系の曲だ。小父さんの提案した新曲に僕が「また昔の歌なの? はあ」って文句を言ったら、小父さんが提案してくれた。
 2週間ほど練習した頃に、ようやく親にも何を歌っているのか教えたら、一瞬きょとんとされたあとに
「アニメソングもやるんだろう」
と尋ねられた。そうだそうだ、あまりに身近すぎて忘れてた。これをやらきゃ、折角のボーイソプラノ、しかも女の子っぽい雰囲気のある声と言うボクの特徴が宝の持ち腐れじゃないの。いつも口ずさんっていうのに。大人の人はこれを「盲点だった」って言うらしい。だから、つい
「まだだけど、歌いたいなあ」
と答えると
「あ、でも、その前にアニメ声の練習が必要かな」
とお父さんが考え込んでしまった。
 アニメ声。普通の小学4年生はそんな言葉に詳しくないだろうけど、僕はアニメソングの歌手を調べているから知っている。魅力的な子供の声が出せるお姉さんたちが、アニメの時だけに出す特別な声だ。たとえば、「ロリッ子声」とか「可愛い声」とか。そんな声、同級生だって出さないものね。でも、多くの大人にとっては実際の子供より魅力的らしい。だからアニメ声優って人気あるんだって。
 声を作るならボクだってできる。声を作るだけじゃない。歌だって上手い。そんなボクがアニメの主題歌を歌う立場に抜擢されたら、きっと人気もあがるだろう。ふふふ、ボク有名人間違いなし!
 いつの間にか、アニメの中で、ボクの顔で魔女っ子の格好やお姫様の格好をする画面を思い浮かべてしまって、ボクは恥ずかしくなった。でもなんだろう、この気持ち。歌が本当に上手かったらきっと喝采ものだ。恥ずかしいけど誇らしい。そんな複雑な気持ちでいると、お父さんから
「アイドルの女の子ってのは、可愛らしさを作っているんだ。だってクラスの女の子の普通の姿と違うだろう?……」
と、さっきボクが思った事と同じ内容を言われた。うんうん、クラスの子がアイドルの真似なんぞ普通にしてたらキモい。アイドルはテレビの前で見るから良いんだ。
「……その一環として声もある、要するに連中だって努力しているんだな。それに勝つには、な」
 ここまで言われたら、次は「日常的な練習」って答えであることは直ぐ分かる。つい20秒前まで感じていた恥ずかしさがスーっと抜けて嬉しくなった反動で、ボクはお父さんにボクの自主性を見せるべく、出来るだけ可愛いらしさを出すような声で
「じゃあ、普段から練習してみるー」
と答えてしまった。冷静に考えればものすごく恥ずかしい真似だけど、その声があまりに酷かったのか、ボクの表情が変だったのか、お父さんだけでなくお母さんにまで
「プッ、フー、それじゃあ全然だめね、まあ、頑張ってみて」
と笑われてしまった。ふん、いいんだ。そう思ったボクはふて腐れた女の子のような顔を作って
「見てらっしゃい? 一ヶ月で可愛くなってみせるから」
と両親に宣言した。
 夜になって、さっきの宣言を思い出すと恥ずかしい。うわ、ボクって、家の中では「アイドルっぽい女の子」のふりをするって宣言してしまったようなものだから。でも、口に出した以上、家では「女の子の口振りの練習」を演じ続けなければならない。両親に本心でどう思われているか分からないけど、そうするしか思い当たる道がない。そして、そんな練習をしていることをしているなんて、両親以外に知られたら、もっと恥ずかしい。これは小父さんすら秘密にしたいぐらいの恥ずかしいことだ。だって、歌以外のことだから。
 しかし、そんな葛藤も、翌日に
「なんだ、もう練習は終わりか」
と笑い顔で親に言われてすっと抜けた。そうだよ、ボクはプロ級になるんだ。家の中だけならいくらでも声の練習をしてよいじゃないの。それに会話だけじゃなく、アニメソングを小声で歌う練習も家の中でしているから、その延長で女声を日常会話で使うのは、家の中だけなら、そこまで抵抗がないんだ。こうして意識して女声を出すようになった翌週にはゴールデンウイークとなった。

 連休は小父さんのところの練習が休みだから、ずっと家で「可愛らしさを作った」女声を出し続ける。それだけじゃない。連休の前半は家にいたが、後半は2度ほど日帰りで遠出して、その間もずっと可愛い声を出し続けた。というのも、肋骨を締め付けた状態で外を歩く事で、発声コントロールを試してみたらどうかな、ってお父さんに言われたからだ。ただ
「試す価値はあるという程度だけど、それよりも、将来、ステージ等に上がる時にあがらないように、外で女声を練習するという度胸付けの方が、意味が大きいかな」
だとのことで、効果の方はお父さんも自信はないみたい。
 でも、確かに遠出は「可愛い女の子の演技」には良いかもしれないと思って、ボクも同意したんだ。知り合いに見られるのは恥ずかしいけど、遠出の時なら少なくとも知り合いはいないから、恥のかき捨てで思い切ったことができる。だって、髪の毛は新学期の時にあまり切っていなくて、それが1ヶ月伸びた今は、お転婆な女の子として見られてもおかしくない程度にはなっているし、歩く為の子供服って、男女兼用が多いから、女の子の言葉を使っても問題ないんだよね。
 結局、トイレこそ、その前後だけ「可愛さを作る」をやめて、利用者の少ない男子トイレに入ったけど、それ以外は丸一日(それも2度)女の子を演じて、言葉遣いも仕草も女の子風にしたんだ。休みの残りも、突然仕草を変えては、それこそ不真面目な気がして、女の子を演じてしまったんだ。その結果、2度目の遠出では、やはり同じように遠出に出かけている家族連れの女の子と仲良くなってしまって(向こうはボクの事を完全に女の子と思ったみたい)2時間ほど一緒にいる羽目になったけど。
 このときまず思ったのは、異性と一緒にいると楽しいって事。小学4年となると、男女で垣根が出来てしまって、女子に近づけなくなる。だから、こうやって女の子と自然に仲良く話せたのは学級が変わって初めてだった。それが可能になったのは、ボクが女の子っぽいから。だから、相手も安心してボクと話をしてくれるってことに、ボクはそのとき気がついたんだ。(あとから聞いた話では)これを大人の男がやったら犯罪だけど、ボーイソプラノの男の子なら問題ないんだって。彼女と2時間で分かれたのはトイレに行きたくなりかけたから。まだ我慢できるけど、ギリギリになる前にお父さんがこっちの意を汲んで別行動を提案してくれた。さすがに女子トイレはないよね。

 そんな連休を過ごした結果、連休後も家では半分無意識に「可愛らしい」声と言葉遣いの練習をするようになってしまい、5月を終える頃には、それに違和感すら感じなくなった。でも、もちろん、それは家の中だけの秘密で、小父さんにすら打ち明けていない。
 とはいえ、小父さんはボクの変化に感づいているみたい。だって、ボクの「アイドル曲」の歌い方というか、その振り付けが明らかに上手くなっているからだ。声も、今までは単純に歌手を真似るだけだったけど、段々、ボク自身の可愛さを武器にするような歌い方になったみたい。そう、物まねでなくオリジナルな可愛さ。それを目を見張った小父さんが
「家で特別な練習をしてないかい?」
と尋ねるのも当然で、ボクはそれに
「そりゃ、世界一を目指すんだもの、復習しているよ」
とだけ答えている。いや、さすがに、正直に答えられないよね。その事に気付いて、急に自分のやっている事が恥ずかしくなったんだけど。
 秘密は知る人間が限られるほど、それを知られるのが恥ずかしい。でも、同時に、そういう恥ずかしい秘密は、秘密であるからこそ、のめり込む。そんな真実を他人から教えて貰ったのはずっとあとの事だけど、ボクはそれを肌で感じていた。そして、恥ずかしさの元になる秘密は、元々は女の子の真似をしているという「秘密」と、女の子を異性として意識し始めているからという「秘密」だけだったけど、女の子の気持ちを歌えば歌うほど、そして国語力が上がって歌詞の意味が以前より分かるようになるほど、異性としての女の子そのものになりきる事に興味が沸いて、その「秘密」の度合いが高くなっていったんだ。そういう気持ちって親にすら知れたくない。
 そういうやましい気持ちを持つと、今まであれほど(慣れたとはいえ)嫌だった、女の子の格好での歌の訓練が、女の子の格好が出来るということで興味が出てくる。でも、そんな嬉しさを皆に知られるわけにはいかないから、ひときわ
「プロ意識として、義務的に」(「いやいやながら」ってのは、プロ意識が足りないって怒られる)
という感じで小父さんとの練習の時にワンピースやセーラー服を着ている。

5月後半の衣替えは、ボクがそういう複雑な気持ちを持ち始めているときにやってきた。新学期に合わせて冬用の厚手のジャケットから春用の薄手のジャケットになった時は、結局のところセーター服(小父さんの所へ練習に出かける時の服)を隠すという役割に違いなかったから問題なかったけど、今回の衣替えはジャケットそのものを脱ぐというものだから、セーター服が人目に付くつくことになる。それはクラスメートなど知り合い見られてしまう可能性を意味している。
 一応は男の子用のセーラー服のはずで、実際リボンとかついていないし、下はズボンだから、女装ではないはずなのだが、以前お母さんが替えズボンを買った時に女物しか白・水色のズボンがなかったようなことを言っていたし、艦隊コレクションのコスプレが出て以来、この服がその系統に勘違いされるような気がして、街中で上下セットの様子を見せるのは少し恥ずかしい。でも、連休以来、女の子の格好に好奇心が出てきて、このどっちかずの格好であれば、恥ずかしさよりも自然に着てみたいという好奇心(誰かがウルトラマン変身願望とかいってたけど)の方が勝って、結局、セーラー服デビューを果たすことになったんだ。
 その初日はさすがに人目が気になった。だって、同年代だけでなく、大人たちがチラチラこちらを見るのが分かるから。きっとコスプレと思われているのだろう。でも、5〜6回も同じ時間帯に小父さんのところに通っているうちに、そんな視線はほとんどなくなった。これって「案ずるより産むがやすし」って奴だよね。
 もっとも、初めて見かけるような大人だと、ボクのことをじっと眺めている人もいる。きっと、コスプレ少年なのか、ボーイッシュな女の子か分からないのだろう。だって視線に嫌らしさがないから。でも、そんな中にも変な視線を感じることがあって、ああ、これが「女の子の嫌がる視線なのか」って理解してしまった。去年までのボクならきっと分からなかったと思う。そして、そういう視線を通じてボクはますます女の子の気持ちで歌うのが上手くなっている気がするんだ。

 そういう普段の積み重ねが練習にも現れたのか、上達が認められて、七夕にいつもの喫茶店で小父さん達のコンサートに出演することになった。デュエット2曲とアイドル曲2曲と普通のソロ1曲。残りは小父さんが歌うやつで、これもクラスの音楽好きが来た。その為に服も新しくスカートとブラウスの組み合わせを買って(なんと新品!)、年末に使ったワンピースやセーラー服と途中で着替えたりしたんだ。
 歌う前は
「去年ほど恥ずかしくないよ」
って強気だったけど、いざ歌うとやっぱり恥ずかしくて、ぎこちなかったかも知れない。でも、お父さんにいわれた通りに小父さんへのサプライズとして、ボクの出番の最後のデュエットで、最後にアニメ声で歌ったのは、皆には好評で(小父さんは驚きつつも調子を崩す事なく普通に歌っていてさすがと思った)、コンサートは成功だったと思う。
 そこまでは良かったけど、クラスの女の子に
「その格好似合ってるよ」
「今度学校でも歌ってよ? 出来ればアニメ曲を。もちろん、その格好でお願いね」
「いや待って、私たちが服は用意するよ」
「放課後一緒に遊ばない? 女の子の格好をすれば私たちと一緒にいても囃されないわよ」
とか言われたのは予想外で、顔や火照ってしまった。恥ずかしいというだけでなく、冗談じゃないという気持ちと、でも興味がないわけでもない(それを隠したい)という複雑な気持ちで。それを受けて
「わー恥ずかしがっってカワイイー」
って言われたのには、さすがに恥ずかしさしか感じなかったけど。
 そのあとの打ち上げで、当然ながらアニメ声の話が出たけど、小父さんは一応怒りながらも、それがお母さんのいたずらだったと解釈したみたいで、
「あの声を秘密練習してたから、上手くなったんだな」
と納得してくれた。そして、
「アニメソングは基礎ができてからと思ったけど、良い結果がでているから解禁だな」
と言って、次の練習からはアニメソングも加わるようになった。

 コンサートから数日後、お父さんから魔法少女のコスプレを渡された。唐突でびっくりしたけど、話を聞いて更にびっくりした。お父さんが会社の後輩に
『小学校の子供が歌の練習のついでにアニメ声の練習もしている』
と七夕コンサートのついでに宣伝したところ、その時の
『実は当日のサプライズだけど、アニメ声でも歌うんだ』
という『アニメ声』キーワードに興味を覚えた後輩さんが、コンサートにこっそり来て、ボクがコスプレの原石だと思ったらしい。それで、後輩さんはノリノリでお父さんをその手のショップに連れて行って、無理矢理買わせたそうだ。子供サイズだったので元々安かったところを、さらに常連の強みで「着用して歌っている動画と引き換え」という条件の交渉をして更に5割引を勝ち取ったんだって。そのまま転売しても黒字になる価格らしい。ただし動画の期限は7月末までの3週間。夏休みイベントに間に合わせるんだって。
 単に1曲歌って動画を撮るだけなら、直ぐにでも出来る。でも
「良い動画だったら、宣伝に使われる筈だから、デビューのチャンスだぞ」
と言われたんじゃ、本気を出さなきゃいけない。その日からボクは家では常に女声だけでなくアニメ声を出すように努力したし、週5回の歌の練習でもアニメソングを優先させた。学校に(プールのない日に)コルセットで行くようになったきっかけもこの特訓だ。どうせ夏休みまで1週間程度だからバレないだろうと思ったのもコルセットを使うようになった理由の一つでもあるけど。
 選曲は、お母さんから話の行っている小父さんが、3週間で間に合うような曲をいくつか探してくれた。もっとも、さすがの小父さんも、アニメ声の出しかたは知らないらしく、どの曲を歌うかはボクが決める羽目となって、優柔不断なボクは、いろんな歌を練習してみて、その中から上手く歌えて踊れそうなのを10日で選んで、残りの10日で特訓ということになった。
 最終的に選ばれたのは4曲、全部で6種類の振り付けで、アニメ声での歌はどうにかなりそうでも振り付けが難しい。いや、動きをアニメのそれにできるだけ真似るだけならどうにかなるんだけど
「見た目に女の子の可愛らしさがないと、意味が無い」
とお父さん(の後輩の言い分らしい)に言われては、基本動作から可愛らしくしないといけない。そうなると歌の練習の時だけではなく、普段の生活でも気をつける必要があって、とうとう夏休みに入ってからの10日間は室内はワンピースやスカートで過ごすようになってしまった。強制されたんじゃないけど、七夕コンサートで使った服がをタンスの横に置かれて
「仕草の勉強なら、それらしい格好でないと実感が沸かないだろうな」
と言われたんじゃ、自主的に着るしかないじゃないの。っていうか、それがちょっと嬉しかったのはボクだけの秘密だ。
 女の子の格好をしたボクを見た母さんは
「それを着るんなら、それらしくしないとね」
と、女の子の仕草を丁寧に教わてくる。時々居間から聞こえてくるお父さんとお母さんの会話からは、お母さんは、ボクの女装特訓にあまり熱心でないと思ったけど、違うのかなあ?
 一番の問題は、クラスメートにどうやってバレないようにするか。歌以外での女装はさすがに恥ずかしい。そして、そうなると、まかり間違って見かけられる場合、とくにビデオを見られた時にに、ボクだと分からないように変装する必要がある。でも
「クラスメートにはバレたくない」
なんてお父さんに言ったら、プロ意識が足りないと言われそうだったので、お母さんに相談した。そしたら、なんと2日後にお父さんがカツラを買ってきてくれたんだ。それは良かったけど
「ほい、これで安心して女の子になりきれるだろ?」
と言われたのに続けて
「よかったな、これで女子トイレにもはいれるぞ」
と言われた時は、クラスの女の子の姿を思い出して背徳感と恥ずかしさで文句をいう声すらだせなかった。もちろん、お母さんが
「何いってるんですか、絶対、そんなことをしては駄目ですよ」
と直ぐに反論してくれたけど、
「おいおい、そんな意味じゃないぞ、スタジオ限定に決っているだろうが。性別隠して撮影する可能性も考えれば、レストランやスタジオのトイレのように男女とも個室式で誰かとかち合う心配がない場所じゃ、実際に女子トイレに入らざるを得ない場合だってあるんだぞ。その場合、子供ということもあって問題にはならないよ」
と言われて、なるほどと思ってしまった。そして、その代わり、ボクは学校以外では立って小便する事が禁止された。学校ってもう夏止みなんだよね。あれ、これって、もしかしたらプールとかで学校に行く日のことじゃなく、二学期のことまでさしているの? 気にはなるけど、そんなことを聞いたら、プロ意識が足りないって叱られそうだし、どのみち、洋式トイレは座ってしたほうが汚れないから、家ではその方が良さそうだしで、黙ってうなずいた。もっとも、お父さんは立ってしているけど、仕方ないや。
 そんなこんなで、締め切り前日に、小父さんのところでキチンと録画した。結局、4曲6種類の振り付けを全部撮影して、店の人に選んで貰うことになったけど、小父さん曰く、曲によっては、本当の女の子以上に女の子っぽい振り付けが出来ていたそうだ。なるほど「可愛い女の子」ってのは作るものなんだね。それは別に可愛らしさをアピールするんだけじゃなく、男の子っぽい激しい動きの中に浮き上がらせるて一生懸命ボーイッシュに振る舞っている女の子」というイメージを与えるのも効果的みたい。
 そして、締め切りの日、お父さんの後輩さんと一緒にコスプレの店にいって動画を渡したんだけど(本人が顔を出すのは礼儀だし)、その動画をみた店主さんと後輩さん(後輩さんもそのとき初めて見た)がすっかり興奮して
「1曲どころか4曲なんて、これは褒美を出さなくっちゃ」
と意気投合して、今度はフリルの、それでもスカート丈の短いコスプレ衣装をボクに押し付けてきたんだ。
「出来れば夏休み中に、その姿を見たいねえ」
という希望付きで。
 これが去年までのボクだったら、えらい迷惑と思っただろうけど、今のボクは新しい振り付けと「女の子の振りの練習」にピッタリだと思ってしまったんだ。可愛らしい服を色々着る口実にもなるし。え? ボク、今、なんか変なことを思わなかった? 思わず顔が赤くなったけど、それを大人の2人は単純に勘違いしたのか、
「恥ずかしいなら無理は言わないからね」
となだめてくれた。こうなりゃ、あとの可能性も考えて、イエスといっておかないと不味いと思い
「いや、やります」
と答えてしまった。その答えが、ボクが夏休み中は家で女の子の格好をすることを意味しているのに気付いたのは、家に帰って両親に話を告げたときだった。

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 【父親の後輩視点】
 
 先輩のお子さんさんが歌うって話を聞いた時は「ここにも子供自慢がいた、うざい」って思ったけど、アニメ声を練習していると聞いて、ちょっと興味を覚え、大人の七夕コンサートで、ちょっとしたコスプレでアニメ声を出す、って聞いて、見るだけなら、先輩への顔も経つし、いいかも、と思って、ちょっと遅刻気味だけだけで出かけてきた。そしてびっくりした。
 男の子だったんだ。女装だったんだ。それがとっても似合っていたんだ。
 父親が息子の女装を支援する例なんて聞いたことがない。そんなにオタク仲間で男の娘を妄想しても、現実にそんな者はいない。高校生では既に体格に無理があり、とはいえ、それ以下の年齢での女装は母親が熱心な場合の小学2年生まで。あとは性同一障害の男の子だけだけど、目の前の男の子は、普通の男の子だ。小学4年の、ノーマルな男の子の女装を両親が支援するなんて、こりゃ、コスプレ界に激震が走る話だ。
 目的がボーイソプラノを最大に生かした歌であることが、全てを納得させる。となれば、是非ともプロモーションをしなければなるまい。早速、行きつけのコスプレ屋に、コンサートの時の写真を持って行って、裏工作をして、その上で先輩を、そこに連れて行く。赤札価格で人気コスプレ衣装を買わせて、その代わりにビデオデビューを持ちかける。同世代の女の子を越える声と歌心があるのだから、あとは振り付けだけだ。でも、質問されること以上のアドバイスはしない。だって、きっとサプライズな魔法少女を演じてくれると信じているから。
 俺の目に狂いはなかった。もたらされたビデオはそれほどの内容だった。こんなものをコスプレ屋の宣伝だけで済ませるのは勿体ない。あらかじめ手配していたとおり、オタク仲間やコスプレ仲間を通じて拡散させる。あ、もちろん先輩には逐次報告ね。だってデビューへの近道に先輩が反対するはずがないから。でも、先輩は一つ忘れている。このビデオ、中身が女の子だと視聴者が誤解する形で拡散しているんだね。だから、翔太くん、君は歌の世界では女の子としてふるわなければならないんだ。なんという萌えるシチュエーションなんだろう。

先輩のアホ! - 夢喰

2017/01/15 (Sun) 20:31:41

これは以前英語サイトで見た女装短編Stuck(http://lvtgw.jadephoenix.org/stories/Stuck01.htm
を下敷きにしています。著作権にかからない程度には大きく改変していますが、原作者に感謝を。

高校の2次元同好会の2つ上の先輩は4人兄弟の2番目で、実家はかなりの金持ちだ。親は名目上は会社重役であるものの、事実上の跡取り惣領で、しかも一族から政治家すら出すほどの家だから、単なる会社重役という言葉では終わらない。そして、この手の実業家によくあるように、この先輩の親・祖父・叔父は悉く「男の家系」を重んじているし、娘は政略結婚の道具としてしか見ていない。だからこそ、男の子を4人も作って確実に後継者を残そうとしている。

ところが先輩ときたら、そんな家系にも関わらず、2次元同好会に入るぐらいのオタクであって、彼女も結婚もめんどくさいと考えている。これには僕も同意する。彼女という響きは良いし、好きな子はいっぱいいるけど、回りの彼女持ちが、彼女たちにものすごく時間を貢いでいるのをみると、現実の女子に幻滅して、とても次の一歩の踏み出せないのだ。取り立ててモテる要素のない僕ですらそう思うのだから、実家が金持ち=優良物件と見なされている先輩にしてみたら、近寄ってくる女は、わがままいっぱいか、下心いっぱいか、その両方で、女子を面倒と思う気持ちは更に大きいだろう。

とはいえ、そんな女たちの中から、実家の繁栄に貢献しそうなのを選んで結婚するぐらいの男でないと、跡取りの一人にはなれない。先輩の実家では「跡取り一人」という考え方には囚われておらず、毛利のように3人が分担して家業を発展させれば良いと考えている。だからこそ、先輩にもお鉢が回るし、実は先輩も、そういう意味での跡取りは目指している。一方で、家業が無理な男子には、実家から切り離して自由に生きさせるという方針もある。それもまた、家業を発展させる為のこつと言えよう。競争制度でなく、絶対評価だから、跡取りの一人と見なすべきかどうかは早めに決めるのが吉だ。その試金石の一つが彼女を作る事である。

当然ながらそれは先輩にも当てはまる。高校時代から彼女を家につれて来るように言われていて、よく愚痴をこぼしていた。そうして、コンパと称して複数同時に呼ぶという安全策を毎年取ってきていた。しかし、自由を求める性格から、高校も大学も、他の兄弟よりワンランク低いところを選んだことが祟って、大学に入っていよいよのっぴきならなくなり、大学2年の正月までに見つけきらなかったら、跡継ぎ候補から外すという最終通告を受けているらしい。

らしい、という噂が本当だと知ったのが、11月の大学祭の時だ。実は、進学希望先の一つ(滑り止め)が先輩の通う大学で、大学の説明を聞きに先輩を訪問した際に直接話を聞いた。クリスマスか、正月。それがタイムリミットだそうだ。
「でも、先輩なら、家業に縛られるより、自由に生きた方がよくありませんか」
と思ったままに尋ねると
「いやいや、ちゃんと家業をやる気だからこそ、今のうちに遊ぶんだ」
という、オタクらしからぬ答えが返ってきてちょっとびっくりしたほどだ。
「高校・大学のワンランクに違いって、なんだ? 寧ろ鶏口となるも牛後となる事なかれっていうだろうが。お陰で、兄弟たちと違って楽に成績を上げているものな。家業に必要なのって、そういう事だと思うんだ。お前だって背伸びして実力以上の大学に入っても何も良いこと無いぜ。」
とアドバイスまでくれたので、へえ、滑り止めの大学でも良いのかな、と思ってしまったのは、担任の先生には秘密だ。

ここまでは格好良かった先輩だけど
「ところで彼女は出来たんすか?」
という肝心の質問には
「まだ1ヶ月以上あるし、この学祭の打ち上げできっと見つかるさ」
と、相変わらず頼りない。口だけ言ってもねえ、先輩、それじゃあ駄目ですよう。

そんなやり取りがあってから、瞬く間に1ヶ月が過ぎて、センター試験まで1ヶ月を切った12月下旬、先輩からいきなり電話がかかってきた。
「ピンチだ、助けてくれ」
聞けば、やっぱり彼女が見つからず、僕の知り合いに「彼女のふり」をお願い出来ないか、ということだ。大学内やバイト先だと、「彼女のふり」では絶対に終わらないトラブルの予感がするので、あきらめたそうだ。そうなると、あとぐされの心配が少なくて、しかもある程度の学力レベルと共通話題を確保出来る高校後輩と思ったものの、具体的には縦の関係のある同好会がらみしか思いつかなかったらしい。そして、その中で、いちばん最近先輩と接触をもったのが僕で、自然に頼られてしまった。大学受験生の年の瀬に頼むなんて、やっぱり先輩は自由人で、跡継ぎ候補から外れるべきだとは思うけど、そこは1ヶ月前に相談した手前、無下に突き放す訳にもいかない。結局、クラスメートの女子に声と掛けてみると請け合って「彼女のふり」アルバイトの条件や報酬を詳しく聞き出した。

「受験生だから厳しいですよ」
と脅したのが効いたのか、なんと、夕食6時間(5時〜11時、移動時間込み)拘束で5万円+衣装化粧代(5万円程度)という破格だ。え、それなら、それこそ援交の連中を引っ掛ける方が良くないか? と思ったけど、そういうグレーな世界は不味いだろう。それに、僕としては、この機会に、以前から好意を抱いている女子に声をかけようと思っているのだ。後ぐされのない人助けで、金儲けで、しかも僕の私利はゼロ。好感度を上げるチャンスだ。よしんば、間違って彼女と先輩がくっついても、僕は「仲人」という名誉を得て、きっとお返しが来る。そんな皮算用をして先輩との電話を終えた。

しかし、現実はそんなに甘くない。センター試験まで1ヶ月なのだ。結局クリスマスに間に合わず、年末補習で声をかけても
「馬鹿じゃないの? この時期に何を考えているのよ」
という返事ばかりで、女子からの僕の評価は地に落ちた。トップの高校からは少し落ちるとはいっても、僕の学校は普通科で、普通に進学を目指す連中ばかりなのだ。

補習が終わって年の瀬となり、僕は先輩に謝りの電話を掛けた。考えてみれば、こんな無理難題を頼む方が悪いし、僕だって「無理だとは思うけど」と念を押してから引き受けたけど、それでも期待に添えないと申し訳なく思ってしまうのはやっぱり日本人だと思う。

そんな申し訳ない気持ちの時に
「じゃあ、君が女装して来てくれない?」
といきなり言われたら、なんて返事ができるだろう。大抵の人は絶句して言葉を出すこともできないだろう
「ほんとに、お願いだから」
「ばれたら諦めるし」
「バイト代も10万円にするし」
「大学に来たらいくらでもおごってあげるし」
絶句している僕に、ぼつぼつと、思いつくことを言ってくる。でも、何よりも僕に響いた言葉は
「だって、2次元同好会でしょ? OB会で英雄になれるよ」
というものだった。そして
「ほんと、ばれたら諦めるって」
というだめ押しに、僕もまた、悪徳洗脳商法で高級品を買わされる被害者のように
「わかりましたよう」
と答えてしまったのだ。

電話を切ったあと、後悔はしたものの、キャンセルは心情的に不可能だ。心を落ち着けよう。大丈夫だ。一番の気がかりは身バレだが、こっちの身元調査の心配は無いらしい。婚約とは異なり「彼女を作る能力があることの証明」であり、テストの対象が僕の人物ではなく先輩のエスコート能力だからだ。そもそも、あまりに早い段階で身元調査をして、もしかしたら有能かもしてない候補者に機嫌を損なわれたら本末転倒だ。なので、向こうは鼻から僕が女子高生だと先入観を持つ筈らしい。しかも、実業家一家の前なので、恐縮してあまり話さないだろうことも了解しているらしい。要するに大きなミスさえしなければ良いとの事だ。

日程もどうにかなりそうだ。僕の家族は明日から1月3日まで田舎に帰っていて、受験生の僕だけがこっちに残る。だから準備が出来る。準備と言ってもネットで調べたりだが、不意に家族は部屋に入ってくる不安がない。家を空ける事に関しても、受験生だから部屋の電気を付けっぱなしにするのが自然で、受験生だから電話を全部留守電にして構わないから、自宅にずっといたというアリバイができる。冬だから夜帰るところを近所に見られる心配も無いだろう。携帯番号に掛かる電話は、家族以外は無視できるし、家族からの電話は、出かける前にこちらから掛けておけば掛からないはずだ。そして、1月2日に決行すれば疲れて女装のまま家に帰っても、家族が帰るまで丸1日ある。

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年を明けて1月2日、午後3時、僕は先輩の2次元関係の同士の更に知り合いという男の所に来ていた。先輩も一緒だ。本職は医療関係で、趣味でコスプレのサポートをしているらしい。コスプレ会で着付師と呼ばれている強者で、彼が素材(僕の事だ)を確認してから今日の女装作戦を決行すべきかどうか判断するらしい。

着付師は、僕をじろじろとみて
「うーん、ちょっと肩が面倒だけど、手首も指も細いから、これならいける、問題ない」
と一人ごちた後、
「まあ、とにかく、時間がないから手分けして剃るぞ」
と言って簡単なシャワーの後に、バスタオル姿で作業台に座らされた。女装素材と認められたお陰で10万円の報酬と先輩の人助けが出来るのは嬉しいけど、報酬のことを除けば悲しくなるものがある。ともあれ、脱毛クリームを全体に付けた後、足は先輩、背中は着付師、顔や脇は自分で剃って行く。ある程度は昨日のうちに剃っているので比較的早く終わる。ちなみに陰部も完全に剃るそうだ。尻を丸く見せ、同時に男性器を隠す為の特殊パンツ(偽尻ガードル)がずれ落ちないようにする為らしい。

剃り終わってシャワーで流した後、バスタオルを巻いて外に出ると、今度は作業用の安楽椅子に座らされた。安楽椅子で足を暖かくしているせいか、眠い。ぼんやりとしているうちに、最後の仕上げと称して、ハンド式機械で全身をマーサージして行く。視界の先に黒いのが見えるのは毛の残りだろう。顔も同じように処理される。もみあげと眉毛が減っている感触がするが、目をつぶった状態の安楽椅子が気持ちよいので、どうでも良くなってくる。

毛の処理が終わると、再度シャワーをした後に今度は、肌を白く見せる為のクリームだ。女性の白さと男性の白さは少し違うらしく、あとから装着する偽乳などの色と矛盾させない為に必要らしい。それらの作業が終わると、ようやく、体型を変える為の補正具を着用する。まずは首(喉仏)まで完全に覆う肌色の7分袖のタートルシャツ風コルセットだ。ただし、素材は人工皮膚みたいな冷たいながらもリアルな肌触りで、乳首部直径5cm程度だけが穴があいている。柔軟性はあるようなので一気に着ると、思ったよりかなりきつい。脱ぐのに一苦労しそうだ。

「感触はどう? 空気とか入っていない?」
着付師の言葉に従がって、全体をチェックする。スポーツウエアのように肌に吸い付いた感じが全体に広がり、皺も無く滑らかに覆っていると思える。しかも締め付け感が馬鹿にならず、その点がまさにコルセットだ。
「大丈夫みたいです」

シャツの横から目立たない色の布(?)がひらひらしているのが気になる。と、それを着付師が持つや
「はい、息を吐いて」
と言って、布をシャツに更に巻き付けた。マジックバンドと同じ? と疑問に思う余裕もなく、ぎゅうぎゅうに締めてきて、うわ、息が出来ない! 

息苦しさに閉口しているところに、同じような素材の、胸近くから膝まであるパンツ(偽尻ガードル)が出された。肛門部に必要な穴がいていて、あと陰部は女性のそれと同じ感じにみえる。ちょいと待て。10秒以上固まって、やっと次の言葉を絞り出せた
「そこまで本格的な奴は要らんぞ」
というかお断りだ。
「なに言ってんだ、女装グッズが陰部を真似るのは標準だろうが。そうでない方が高いんだぞ」
と着付師がたしなめる。いや、そんな意味じゃなくて、もっと簡単な女装とかってあるはずだよね。パンストにタオルを入れるとか、普通のガードルとか。こんなところに金を掛けるなら、もっとアルバイト代を弾んで欲しいって、あ、10万円も貰うんだった。ならいいか。文句を言っても、どうせ、この変態グッズから逃れられるとは思わないし。

偽尻ガードルの中には管みたいなのがあって、
「あ、そこからおしっこを出すので、入れてね」
と言われるままに装着する。肌に吸い付く感じはコルセットと一緒ながらも、きついのは上下の両端だけで、臀部はゆるく、素材に柔軟性があるせいか、違和感が少ない。玉もすんなりと収まっていてタックではないらしい。これでごまかせるなら楽だけど、勃起したらどうしよう、と思ったら、本当に勃起し始めた。不味いと思ったけど、股間を見ると平坦なままで、代わりに勃起部の根元が折れた感じで痛みが走るが、そこまで酷い痛みではない。
「あ、柔軟剤が中に入っているから大丈夫だよ」
なに、その柔軟剤ってのは? そう思っていたら、ガードルの最上部にあたるウエスト部から肋骨にかけてきつく締められた。さっきの布と同じ感触だ。行き場のない内蔵とが圧迫されるのを感ずる。更にその反動で、臀部の肌が横と後ろに引っ張られるのを感じる。どうやら、単なるふにゃふにゃの布(シリコン? 人工皮膚?)ではなく、ワイヤーみたいに剛性のある素材らしい。

そんな疑問の答えを求めて下をみると、魅惑的な腰が目に入った。腰というか尻というか、そこは横にも後ろにも広がって、しかも柔らかそうな見た目だ。しかも豊かな尻の位置というか、足の付け根が少し下がって、きつく締められた膝と相まって、膝から腰まで奇麗に広がる完全に女の太腿を作っている。その分、足が短くなるが、日本人の女の子の太腿ってのは短いのが普通で、却って自然に見える。これならスカートどころかスパッツでも男とは分かるまい。ちょっと歩きにくくなりそうだけど、それは歩幅を女の子のように小さくするのに役立ちそうだ。遠目に肌と区別のつかない色であるところも見事で、パンストさえ履けば、皮膚とガードルの継ぎ目も分からなくなる筈だ。なるほど、ここまで見事な偽尻ガードルなら、女性器まで付けてしまうのも自然だと納得する。納得はするが、それを今回自分が装着するとは想像出来なかったし、今でもいやだ。2次元研究会ですら「キモい」「変態」と罵られるレベルの女装グッズだからだ。同好会の連中には単に偽尻ガードルとだけ言っておこう。

上半身を目を移すと、喉仏は奇麗に押し込まれ、肋骨が少しだけ細くなって、なにかゆったりした服を着れば、そのまま女装になりそうな気がする。そのくらいには女装にも詳しくなった。正月に色々調べたのだ。それは良い息抜きになって、勉強がはかどったのは不思議だが。そういえば、さっきの巻き付けで胸の開口部がひろがって直径が7cmぐらいになっている。そして、そこから余った肉がせり出している。おっぱいにほど遠いけど、プラジャーをすれば実体感を演じる事ができるだろう。なるほど、考えたものだ。でも、これってそのまま写真に撮られると恥ずかしいレベルのコルセットで、こっちも、2次元研究会にすら報告できない。

そんな事を考える僕の余裕を見たのか、着付師は下半身をタオルで隠し、コルセットのさっきの補強布(?)を外して
「はい、もっと息を吐いて」
と、上半身を更に締めてきた。しかもさっきと違って下端部まできつく締めて、ガードルの上から圧迫を重ね掛けして、みごとな括れを作っている。これならガードルがずれ落ちる事はないだろうが、脱衣は面倒そうだ。補強布を外すこと自体は、さっきの着付師の手つきから簡単そうだがけど、開閉部が横にあるので、意外と手こずるかもしれない。まあ、昔みたいに、背中の編み上げでないから問題ないだろう。ちなみに胸の開口部は更に広がって8cmぐらいで、皮下脂肪が更にせりあがっている。

きつく締められた為に呼吸が大変なので、あまりものを考える余裕がない。呼吸に集中していると、頭にすっぽり何かがかぶさった。もちろんウイッグだ。ずれるのが怖い奴だな。
「毛の根元に静電仕掛けで裏側がくっつくようになっているんだ」
化学物質で静電気を髪の毛に発生させているらしい。外し方は教えてもらって、実際試したものの、
「これ、外すのは簡単だけど、再びくっつけるのにはコツがいるんだよ」
と、最後まで外さないように念を押された。確かに2度目の装着は手間取っている。静電気って厄介なんだな。

着付師が先輩に
「胸はどのくらいが良い?」
と尋ねている。
「貧乳で良いなら、このままでもいけるが、まあ、あったほうがいいね」
着付師に言われて、上半身を鏡で見る。さっきの2度目の締め付けで、確かに胸部の穴から盛り上がった皮下脂肪と肋骨の形やサイズとのバランスが良くなっている。肋骨の幅自体はあまり変わらないものの、少し薄くなったみたいで、それが効いているようだ。例えば、大胸筋がほとんど消え、鎖骨が浮き上がり、それらが胸の存在感を引き立たせている。その分、肩も万力で挟まれた感触がして、実際、見た目にも肩の厚みも幅も狭くなって、まさに女の細いなで肩となっている。確かに、このままで超貧乳の女装はいけそうだ。なんか、凄いな、と思っていると、そんな疑問の答えるように
「肋骨をしぼると、肩が下がるから細く見えるんだよ」
と着付師が説明してくれた。なるほど、さすが変態グッズだ。コスプレの業の深さを改めて感じた。

「うーん、背もあるしBカップぐらいかな」
2次元の申し子たる先輩は貧乳ヒロイン派だが、僕の身長は168cm、女子の平均を大幅に越えるので、貧乳というのは、よほどスポーツをしていない限り不自然だそうだ。そこでBという数字らしい。このことからだけでも、今夜のイベントに先輩が真剣であることが分かる。まあ、そのくらいでないと、僕も割が合わない。脱毛されて、シャツ型の変態コルセットをきつく着けられて、挙げ句の果ては女性器を模した偽尻変態ガードルだ。黒歴史そのものだ。

着付師の持ってきた偽乳は想像以上にリアルだった。昔から女装グッズの中でも一番需要が高かった故に、性能が上がっているという説明を聞いて納得した。貧乳であれ巨乳であれ男の夢だ。欧州アフリカでは尻派が主流だそうだが、日本では胸派が主流だから、本物と見まごうほどに見た目も性能もあがるのは当然だろう。外見だけでなく、揺れ具合も、感触も。着付師によると、生体類似繊維を多用して、偽乳の乳首に与える刺激を実際の乳首まである程度伝達するようになっているそうだ。だから、さっきのシャツコルセットは乳首部が5cmほど開いているらしい。

肌に電気信号用のクリームA、シャツコルセットに接着剤Bをつけて、偽乳を胸の上にくっつける。まず右、そして左。ここまできたら、胸の観測を手で確かめなければ男じゃない。
「おい、おまえ楽しそうだな」
という先輩の声に、ちょっと顔が火照りつつも
「先輩、2次元同好会として、ここで胸を揉まなかったら、逆に犯罪ですよ」
と反論する。あまりにもハイテクなので、当初の予想に反して女装がちょっぴり面白くなったのは事実だけど、僕はあくまで被害者面をすべきで、面白さを認める必要はない。胸以外でそんな様子を少しでも見せたら、バイト代がケチられる可能性があるからだ。なんたって、これだけの女装グッズだ。これに服をいれれば、それだけで10万円近くするのではあるまいか。バイト代と合わせて20万円。いくら将来が掛かっているとはいえ、学生が気楽に出せる金額ではない。

偽乳の感触を確かめたからには、次は偽尻ガードルの女性器の感触も確認したくなってくるが、まあ、それはシャワーかトイレまで我慢だな。と、そこまで妄想して、さすがにエロが過ぎたと反省した。感づかれたらヤバい。話題かえなくっちゃ。
「なんだか、接着剤らしいのを使ってましたが、これってどうやって外すんですか?」
リムーバーってきっとあるよね。シンナーかな? 最悪ハサミでコルセットごとという手もあるけど、もったいなさそうだし。
「今夜シャワーを浴びれば大丈夫。念のためにリムーバーも渡しておくけど、こっちは時間がかかるよ。これを継ぎ目から垂らせば少しずつはがれるから。その時に短気を起こしてコルセットごとハサミで切れるのは出来ればやめてね。もったいないから」
うん、大丈夫みたいだ。

説明と同時に胸の上にもバスタオルをかけられる。リアルに近い胸だから人目に晒しちゃ駄目らしい。女装といえども、きちんと「恥ずかしい」と思わないといけないそうだ。今の僕の姿を、本当のボクの生まれた時の姿って思うぐらいじゃないと女装演技は失敗する。説教されるまでもなく、確かにそうだ。10万円の報酬と、先輩の未来がかかっているのだから、このくらいの自己暗示は必要経費だろう。そして、そう思った瞬間、胸を晒す事が、先輩に対してすら恥ずかしいと感ずるようになった。だから、バスタオルできちんと胸と腰を隠す。そして、隠せば隠すほど、肌を晒す事が恥ずかしくなってくる。畜生、これはつらい。ちょっと甘く考えていた。

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「下着は自分で選ぶんだね。ちなみにアウターはこれ」
と言われて手渡されたのは、水色と白の斑の膝下スカートと、白と青のまだらの長袖チュニックと、その下に着る水色のフリル付きキャミソール(むかしスリップと言っていた長めの奴)。ハンドバグッグは普通に茶色。なんだよ、これじゃベージュか水色の下着以外にチョイスがないだろ、バスタオルで胸と腰を隠しながら着替え室にはいると、そこには異なるフリルとデザインの下着セットがならんでいた。実家への紹介というイベントを考えると、全くシンプルなのはさすがに不味そうなので、すこしフリルのあるやつを選ぶ。

しかし、サイズがどれも想像より小さい。
ブラジャーのサイズはちゃんと予習している。昨日測った僕のアンダーバストは80cm、ウエスト74cm、チェストは88cm、普通に細い18歳男子だ。なのに、置いてあるブラジャーはアンダー70か75。あ、コルセットで絞ったせいだ。そう思って、横のメジャーで測ると、なんとアンダーは元々のウエスト並みの73cmで、バスト86cm、チェストは84cm。ちなみにウエストは68cm。息苦しいのも当たり前だ。無理の無い75Bでをチョイスして着る。男の肩は回らないから、前後ろでホックを留めて、後ろに回し、偽乳をカップに入れると、乳首に緩い感触が走った。げ、本当に偽乳首と乳首が少しだけ連動してやがる。今夜は帰って乳首と遊ぼう。外すのはそのあとだ。

サイズの合うブラジャーが決ったところで、それにマッチするショーツを選ぶ。ヒップは94cm(10cm水増し!)あるけど、ウエスト68cmを考えてMだ。ウエストは4cmしか縮んでいないけど、細い部分が上に広がり、尻が縦サイズも幅サイズも奥行きも広がったので数字以上にくびれている。とはいえ、あとで調べたら標準サイズそのものだった。サイズ測定ついでに、陰部を少しだけ触ったが、柔らかさや湿気があまりにリアルでめまいがした。これを夜楽しむなんて言語道断、変な世界に目覚めそうなので絶対に止めておこう。

あとは普通に着る。パンストは普通にベージュ。それぞれ新しく着るたびに少し興奮するが、仕事と割り切っているので事前に心配したほどのパニックにはなっていない。いや、さっきから勃起の感触がずっと続いているけど、それはそれだ。何度も勃起しているとはいえ、無理矢理後ろに曲げているせいか、テッシュ一枚で済む。というか、仕方が無いので、実は生理ナプキンをショーツのクロッチにあてている。念のためにデザインがややおとなしいショーツとナプキンの予備をハンドバッグに入れる。なるほど、女の人にハンドバッグが必要な訳だ。

ちなみにトイレだが、何度もシャワーを浴び、最後のシャワーの直前にトイレに行ったせいか、尿意はない。そして、服を着る直前に
「これ、おしっこを止める薬だから」
と錠剤を渡されている。なんでも長距離航空便で身障者などが使う薬で、たとい膀胱を圧縮されていても、6時間ぐらいは全然大丈夫だそうだ。

着替え室を出ると、すでに5時に近い。1時間後にはここを出ないといけないが、残るは化粧だけだ。再び作業椅子に戻って着付師に委ねる。着付師は、いちいち説明してくるが、僕に女装趣味はないから、気持ち良くうとうとする。そうして出来上がった僕は、顔も体型も女の子だった。なんと、喉の部分も皮膚らしくなっていて、その色合いが顔に続いている。丁寧にみても「コルセット」と皮膚との境界が分からない。

仕上げは靴だ。幸い洋食なので、靴を脱ぐ必要がない。しかも今は冬。という訳で、サイズ24.5の低めの革靴、要するに女子高生が登下校に使う奴を使うことにした。女装とヒールの両方を注意するなんて初心者には無理だから、普通の靴で済ませる。そもそも、先輩との身長差が8cmしかないわけで、ヒールなんか履いたら高さのバランスが悪くなる。男をたてる女は、背の高さでも立てるべきなのだ。

肘を閉じ、膝を閉じる。そういう仕草の指導を最後に受けたが、その際に着付師が
「まあ、そのコルセットとガードルは肩関節と股関節の向きに制限を掛けているから、ちょっと練習すれば自然に振る舞えるようになるよ」
と打ち明けてくれたとき、女装グッズの進化にすっかり呆れた。そういったグッズの中には変音スプレーなるものまであった。なんでも「コルセット」の喉仏を抑えている部分を内側からさらに圧縮して、低音が出るのを抑えるそうだ。コルセットで肺が抑えられることも重なって、か弱い、メゾソプラノの声しか出せない。

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タクシーで予約された貸し切りレストランに向かう。立食形式のスターターから始まって、席についてのディナーとなる。親だけでなく、叔父叔母も参加するというものだ。他の季節の「彼女紹介」なら家族だけのこじんまりしたものだが、今日は親戚の新年会もかねているので、貸し切りらしい。
え、そんなこと聞いてないぞ、
と先輩のポンコツぶりに突っ込みをいれるが、まあ、オタクの鏡だから仕方ない。直前になってハードルが上がったものの、逆にお陰で準備での不安が少なくて済んだと思えば、これはこれで良いのかも知れない。

実際、ぼろを出さずに夕食は流れている。立食歓談で、ちょっとつまづきかけて、キャミソールが背中越しに見えるアクシデントがあったものの、そこで現れた体型が女性の丸みを帯びた腰尻ラインだったので、逆に女装の自然さをアピールする事になった。なるほど、こういうアクシデントを考えて、あれだけ徹底的な体型補正をしたのだなと納得した。あと、肘や膝が自然と女の子っぽくなってくれているのも、あのマニアックな装備に感謝だ。

でも、はしたなかったのは事実。女の子らしく、動きは小さく。女の子らしく、動作はゆっくりと。下着を見せる事のないように。胸の開いたチュニックからブラジャーが見えないように。ここはディナー、ランチと違って見せブラはNGだ。僕は女、違う、私は女。私は少女、私は女子高生。そう暗示をかける。それが女装演技の第一歩だ。時給1万円強の仕事だ。

食事とデザートが終わると、食後酒がやってくる。これを境に人々が自由に席を替わるのは、忘年会と一緒だ。先輩の世代の半分は、ラウンジで立ったまま酒を手に話をしている。ここまで上手くいったので私はほっとする。意識は僕でなく私。

弛みは先輩にもあったのだろう。横に立って同年代の従兄弟と話をしていた先輩が、急にバランスを崩して、アルコールが私の肩にかかった。白青地にオレンジの染みがひろがり、同時に下着が少しだけ透けてくる。
「あっ」
ととっさに出た声は、幸いにして小さく、女の子っぽい「きゃ」で無い事はとがめれなかった。でも、そういうことを後から反省しているうちに、回りが
「あら大変」
「うちの馬鹿息子が粗相をしおって」
「嫌いにならないでくだしまし」
と次々に声がかかり、女性たちが手ぬぐい等で濡れたところを拭こうとするのに対して反応するのが遅れてしまった。気がつけば拭う手は偽乳にも届いている。やばい、と気付き、慌てて
「あ、大丈夫ですから」
と自分で拭い始めた。

あの偽乳に気付いていないか気になって、汗が出始める。こんな時は、と長い長い30秒を考えた末に、私はお手洗いに向かった。貸し切りなので、女子トイレで問題ない。小さなレストランだから個室1個だけだ。困った時のトイレ。女性がなぜトイレを大切にするのか分かるように気がした。とりあえず、ぬれて透けたところを出来るだけ乾かし、身だしなみを整えて、さっきので偽乳がバレていない事を信じ直してトイレを出ると、参加者の一人が、買ったばかりのブラウスとキャミソールを手渡してくれた。初売りの買い物の帰りらしい。
「いや、そこまでして頂く訳にはいきません、洗えば落ちますし」
「まあ、うちの従弟のそそうなんだから、取っときなさいよ」
という押し問答の末、先輩の
「もらっとけ、もらっとけ」
という言葉(ちなみに先輩は、この言葉遣いに対して従姉連中から非難されていた)もあり、着替えることになった。レストランが貸し切りなこともあって、更衣室で着替える。いつ誰が部屋に飛び込んで来るのか分からないという不安で、落ち着かなかったが、よく考えたら、こういう場の女性たちが、更衣室に飛び込むようなアニメ的状況が起こる筈はない。

折角だから服を軽く水洗いする。元々の予定では、下着とキャミはともかくチュニックとスカートは着付師に返す予定だったが、そういう訳にもいかないだろう。明日先輩と相談だな。って、先輩なら、何も考えずにそのまま持っておけといいそうで怖い。やぶ蛇だよな。なので、クリーニングに出して着付師に持って行こう。確か着付師は3日4日は旅行で5日に戻るみたいから、ちょうど良い。

そんなアクシデントもあったものの、なんとか食事とデザートを無事終えて、私は先輩にタクシーで送ってもらった。あれ、今、なんか変なこと言ったかな。あ、ずっと私って言い続けて、私は女の子って自己暗示していたから、イベントが終わっても、ついつい私って思ってしまったんだ。でも、皆を騙せた成功で気分が良いんで、このままもう少しだけ演技を続けよう。

タクシーの後ろ座席で、先輩が私の手に封筒を滑り込ませた。恐らく報酬。運転手がバックミラーを見ていない事を確認して素早く中身を確認する。その直後、先輩が耳うちしてきた
「次の機会もよろしく」
なに言ってんだ、この馬鹿野郎。

家の前で車を降り、素早く家に入る。玄関は電気がついていないし、冬で何処の家も窓を閉めているので、音も聞こえまい。帰着した私は、やっとリラックスした気分になった。とはいえ高揚した気分で、未だに女の子モードを楽しんでいる。歯磨きで、鏡で自分の顔と上半身を見て、もったいないと思う気分がますます強まったからだ。体型だけでなく顔もだ。睫毛等はもとより、唇が少し突き出て、その分小さくなっているし、目もぱっちり開いて、顔の目立つ輪郭も丸っぽい。僕の顔なのに、僕の顔だと分かるのに、女の子の顔になっている訳で、着付師の腕のすごさに改めて感心した。これを直ぐに戻すのはもったいない。

さっき、先輩の事を馬鹿野郎って思ったけど、これって良いバイトだよな。受験が終わったら、報酬次第では、もう一回ぐらい付き合っても良いかもしれない。関係が2ヶ月以上続けば、親御さんも先輩の事を本格的に認める筈だからだ。それで先輩は「次の機会」って言ったのだろう。ということは、その時に為の練習として、もう少しだけ女の子の演技を続けてもよいよね。そう、自分自身に女装の言い訳をする。だから、寝るのも、この体と、ショーツとブラとキャミで。でも、その前に、胸を揉んで、あそこもちょっとだけ触って。当然、シャワーは明日に延期。

結局、興奮しすぎて、寝たのは3時。興奮を鎮める為に受験勉強を1時間ほどしたら、やっと尿意が来たので、それでトイレに行ったら、普段も座ってしているというのに、やっぱり興奮してしまって、更に1時間受験勉強をする羽目になってしまった。ともかく、寝坊で9時に目が覚めた。

家族が戻るのは夕方7時だ。夕食は田舎から持って帰ったお節と、私の正月用のお節。だから、夕食の準備が不要ということで、夕食前ぎりぎりの7時で戻ってくる。取り外しとかハプニングとか考えても午後4時まで、つまりあと7時間は女の子でいられる。とりあえず、ショーツが汗をかいているのでハンドバッグの予備に変える。ブラジャーは予備なしだ。

女の子の朝は洗面から。化粧は昨日のままで崩れていない。次が朝食。女の子モードで、朝昼兼用の食事をかわいらしく盛りつけよう。皿洗いは、まあいいや。最低限で。親も期待していない筈だし。そのあとは勉強勉強。もっとも、一軒家の常で、外から見えてしまう区画が結構あって、食堂に降りる時はジャージを着て帽子襟巻きをしないと不味い。

それで気付いたのだが、ジャージが合わない。尻が大きすぎて履くのに苦労する割に、ウエストがだぶだぶでズボンの上の方が垂れ下がるし、上は、ぶかぶかだ。おっぱいがあるといっても、元々のチェスト88cmが、コルセットと偽乳でチェスト84cm、バスト86cmになったのだから当然だろう。だが、それ以上に不思議なのが、ブラジャーがぶかぶかな気がするのだ。おかしいと思ってメジャーで測ると、アンダー71cm、バスト85cm、チェスト83cmとなっていた。ちなみにウエストは68cm、ヒップ94cmで、ヒップを除いて昨日より1cm〜2cm更に縮んでいる。呼吸の苦しさになかなか慣れないと思ったらそういうことなのか。だてにコルセットとかガードルとか名付けられている訳ではなさそうだ。これなら70Bか70Cのブラジャーにすれば良かったと後悔するが、そんなのは次の機会でいいだろう。

昼過ぎに先輩から電話がかかってきた。まあ、当然だ。
「もしもし」
と答えると
『**君をお願いします』
と妙な反応だ。
「私ですが」
あ、私って言ってしまった。家族が帰る前に戻さなくっちゃ
『あれ? 風邪でも引いた?』
馬鹿な私、じゃなくボク。声が戻っていない? コルセットの喉を抑えているからあり得る。ここはごまかさなくっちゃ。
「そのようです」
『ごめん、昨日のせいだね。じゃ、受験頑張って』
先輩焦っている。ヘタレで可愛い。ってそれは女子高生の発想だ。ボクは男に戻らなくっちゃ。そういえば家族が電話する事もあるよな。『遅れる』とかいう内容で。でも留守電で十分か。

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勉強に集中して気付けば5時。あまりに女装グッズと女の子の下着に慣れてしまって、忘れていたけど、男に戻らなくっちゃ。まずはウイッグ。昨日外したところを触るけど、あれ、皮膚との境界が分からない。もしかして、昨日の最後の化粧で分からなくした? あり得る話だ。お湯で外れるんだっけ。いや、それは確か偽乳の筈。なら、先に偽乳か。たしか、リムーバーかお湯だったよな。

まずはブラジャーを外す。肩の柔軟さが良くなったのか、ブラジャーが楽に外せる。幸先が良い。次にハンドバッグからリムーバーを出したものの、偽乳の境界がコルセットに癒着しきってわからない。昨日の夜寝る前は確かに継ぎ目の感触があったのに、それが消えているのだ。とりあえず、目測でおっぱいがふくれ始まっているところにリムーバーを垂らすものの、上手くいなかい。爪でこするとかゆみのような軽い痛みだけがあって、継ぎ目の感触は無い。最新のセロテープみたいに完全な継ぎ目なのだ。

焦った僕(そう、焦ったお陰でやっと僕モードだ)は、コルセットごと偽乳を外すべく、脇の補強布部を外そうとするけど、こっちも継ぎ目が分からない。補強部で圧縮されたままじゃ、コルセットをシャツのように脱ぐのも到底無理な気がするので、上半身は後回しにして偽尻ガードルに意識を移す。しかし昨日、コルセットを巻き直した時にガードルの上からコルセットをきっちり留めたので、コルセットを外さない限り、ガードルも脱げない。しかも、コルセットとガードルの継ぎ目も分からなくなってしまっている。昨晩は確かに残っていた継ぎ目が消えてしまっているのだ。要するに一晩で、偽乳偽尻付きのスーツを首の上から膝肘までかぶってしまっている状態になってしまったらしい。

心を落ちつけろ。まずウイッグだ。昨日の場所の引っ掻くて探り当てよう。そうして爪を立てたら、皮膚に鈍いながらも痛みが伝わってきた。そういえば合成生体繊維を皮膚につなげるって言ってたな。それって乳首だけでなく髪もなのか? そうなのか? 現に髪に違和感が無い。ウイッグの下がから蒸れる筈なのに、それがないし、帽子を通して髪の毛が普通に感じる。嫌な予感をもって髪の毛を引っ張ってみると、なんとなく自毛が引っ張られている感じがする。

よし、深呼吸だ。髪の毛は最悪自分で切ればよい。時間はある。問題はコルセットだ。もう一度、脇の継ぎ目と偽乳の継ぎ目を探す。鏡と触覚の両方を総動員だ。見つからない。双方の見繕った場所にリムーバーをかけるが、やっぱり変化がない。今度はコルセットとガードルの継ぎ目を探す。これも見つからないし、リムーバーも効果がない。

どうやら、本当に肘から膝まで覆うオーバーオールの状態になっているみたいだ。同じ材質だから癒着したと考えるのが自然で、だからこそ、コルセットの補強部も分からなくなっているのではあるまいか。となると、シャワーを浴びても駄目かもしれない、という嫌な予感がする。顔と掌に汗を感じる。その場合は、ハサミで切り開くしか脱ぐ手段がない。幸い、肘と膝の境界だけは、触覚の感触のわずかな違いでわかる。目には全く見えないし、ちょっと触っただけでも分からないから、たとい肘や生膝を出す格好でも女装がばれる事はないだろうが、ハサミを入れる分には面倒だ。まあ血まみれで癒着した絆創膏をはがすよりはマシだろうが。

でも、ハサミは最終手段だ。まずはお湯だ。偽乳を外すのにシャワーを浴びろといわれた以上、今の状態でも案外簡単に外れるかもしれない。そう期待して脱衣場に入る。そこで裸の自分を見て、そのスタイルの良さに驚いた。85-66-94とはそういうレベルだ。もったいないと一瞬思ったけど、今はそんな状態ではない。シャワーを10分ほど浴びて、偽乳やウイッグが緩むか調べる。顔もごしごし洗って睫毛を引っ張る。

シャワーをいくらしても、何も外れる様子が無い。リムーバーか? あるいはシンナーか? あるいはお湯が足りないのか? 顔のほうも、化粧(といっても進学校としてはおかしくない程度の化粧だったけど)こそ落ちたものの、睫毛が長いままだし、目は開いたままだし、唇はサクランボみたいで、肌も美人の白さのままだ。

風呂にお湯をためている間にリムバーを試すが、それも効果がない。洗面所で見つけたシンナーも全く効果がない。それは顔もそうだ。そうこうするうちにお湯がたまったので、風呂に入る。掛かり湯で、股間まできちんと洗う。毛の全く無い子供の股間だが、それでも女性器は開いている。おしっこで股間を拭いた時に、感触すらあった。鬼頭の感触とは違っていたが、それはガードルで保護している為だろう。そして、この開口部にガードルを脱ぐための突破口があるような気がするが、確認するのが怖い。というのも、この無駄にリアルなグッズだと、よりヤバいで、指を突っ込むと取り返しのつなかい快楽に目覚めてしまうのではないかという不安が残るのだ。だから、それは最終手段だ。まずは入浴だ。

入浴は何も解決しなかった。それどころか、ガードルやコルセットのような「異物」という感覚が消えて、なんとなく裸の感触なのだ。それでいてコルセットの締め付け感だけは残っている。
『逆効果』
という恐ろしい考えが頭をよぎる。慌てて風呂の中で、膝と肘の境界を探す。さっきは確かに「頑張ればめくれそうだ」という感触があったのに、今や「これを剥がすにはハサミどころかナイフでも難しいんじゃないの」というぐらいに皮膚に癒着しきっている。そして、見た目には、近くからみてすら、まるで完全に溶け混じったかのように、皮膚と区別がつかない。

急いで風呂から上がって、部屋にもどる。既に6時半。あと30分か1時間で家族が帰る。乾いた体で、改めて継ぎ目を探すが、膝と肘にわずかな微かな感触を感じるだけで、ほかは全く分からない。とりあえず時間切れ対策として、女物の服を全部ビニールに包んで引き出しの一番奥に入れる。それからハサミ片手に三たび境界を探すが、とてもハサミが入りそうにない。

最後の頼みの綱は着付師だ。住所から電話番号を割り出して、電話するものの、留守電で繋がらない。仕方ないから先輩に電話する。
「もしもし**ですが」
『風邪は大丈夫かい?』
「まだです。それはそうと昨日の着付師に連絡取れませんか」
先輩は何も疑う事無く、携帯の番号を教えてくれた。よかった。始めからこうしておけば良かったんだ。

着付師に電話すると、留守電だったものの、折り返してくれそうなので待機する。既に時計は7時ちょっと前。いつ家族が戻るか分からない。だから、待っている間に、男物の服を着る。一番小さなTシャツで胸を潰して、その上からTシャツとジャージの重ね着で、一見では女体と分からないようにしている。髪はまだ切っていない。というのも、この体と声では髪があった方が自然だし、いつでも切れるからだ。家族には友達が現担ぎでウイッグを薦めてきたとでも言えば良いだろう。運が良ければ外してくれるかも知れないし。ごまかせないのは声だけだが、これは風邪気味と言い訳すれば、マフラーで乗り切れるだろう。

そこまで準備したと所で、着付師から電話があった。症状を説明すると、
「え、24時間着っ放し?」
と呆れられた。
「だって疲れていたからそのまま寝てしまったんですよ、継ぎ目は昨日の段階では分かっていたし、外すのに時間がかかりそうだったから」
嘘も方便だ。
「体質によるけど、ウイッグは12時間以上着けてると外れにくくなる人もいるよ。うちに来たほうが良いね」
「コルセットもガードルも同じ材質だから、体温の状態だとお互いに癒着するんだよ。しかも汗を吸って収縮もするんだ。だから体温で12時間を過ぎるとはがすのが難しくなってきて、24時間もたったんじゃ、完全に一体化だね。素人だとハサミで切らないとむりだよ」
「偽乳はお湯だけで良かったんだ! 汗を吸った状態で先にリムーバーを使ったら、化学反応でくっつきやすくなって、そこにお湯が加わるとコルセットと偽乳が完全に同化ちゃうこともあるよ」
「風呂で膝と肘が分からなくなった? もしかして、手にリムーバーが残っている状態で触らなかった?」
あ、あり得る。でも、それならちゃんと説明をしろって。
「何度も説明したのに君は寝ているから、依頼者のほうに説明しておいたけど、彼から説明はなかったのかい?」
先輩のアホ!

ともかく、着付師のところで外してもらうまではこのままらしい。早くて2日後。そして、その間にコルセットもガードルも汗のせいで段々伸びにくくなって、下手すると脱げなくなるらしい。憂鬱だ。と思った時
「ただいま」
という声がした。2日近くごまかす事が出来るかどうか?

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家族には速攻ばれた。体型はともかく顔が完全に「美人」だったからだ。しかもウイッグ。声はメゾフソプラノ。そうなれば、体つきも吟味されるのは当然で、母親が僕の部屋の来るなり
「ちょっとジャージを脱ぎなさい」
と言われた。女の子になった訳ではなく、あくまで女装だ言い張ったが、この完璧な女装を信じてもらえる筈も無く、いつまでも「そっくりさんの女子高生」による替え玉だと思われた。先輩から貰った服や下着も母親に提出して説明しても無理。それでも記憶は完全に僕なので、結局2日後まで猶予となり、その間は弟の目に毒ということで部屋に軟禁となった。それでも、心配して替えショーツとスポーツブラジャーを差し入れてくれたのはやっぱり母親というものなのだろう。

2日後、無事に全部外してもらったが、だからといって体型が完全に戻ったわけではなかった。丸3日間の女装グッズ装着で、上半身が細くなり、余った肉が少しだけ胸と尻に集まって、肘や膝の動かし方もちょっと女っぽさを残してしまってる。要するに、そのまま女装出来てしまう体つきなのだ。少しずつ戻るらしいけど、全治1週間と言われた。あと顔や皮膚が白くつややかになった分は、不健康な生活と日焼けをしないと戻らないと言われた。まあ、これは仕方ない。それより問題なのが、グッズを外す時に、体毛が大量に持って行かれたことだ。そう、脱毛なのだ。冬だから良いけど、これが夏だったらと思うとぞっとする。まあ、そういう人向けのグッズらしいから仕方ないが。

家では、やっと僕だと認めてくれた母親が、女物の服や下着を僕に見せつけて
「これどうするの? 女装なんてしたら女の子にモテなくなるわよ。でも、もったいないわよね」
と両方の意見を出してきて僕に選択を迫る。何と言っても、服も下着も多いのだ。着付師のところで着た服(長袖チュニック・キャミソール・膝下スカート)は
「服代は既に依頼者から貰っている」
と突き返されたし、夕食での先輩の粗相のあおりで貰ってしまったブラウスとキャミソールもある。下着だって、ショーツ4枚(着付師2枚、母2枚)とブラジャー2枚(着付師1枚、母1枚)、パンスト2枚(着付師1枚、母1枚)ある。それら大量の服を前に、僕はたじろいでしまった。下着を除いていずれも1度しか着ていないのだ。処分するのはもったいない。

3日前までの僕なら、それでも無条件で
「金輪際女装はしない」
と言っただろう。でも、今回の「演技」のスリルと高揚と勃起を経験したあとだと、将来に女装する目を残していたい気はするのだ。特に高額報酬ならなおさらだ。とはいえ、母親の手前、女装したいと言える筈も無い。だから、いろいろと考える振りをして、勿体ないことを何度も強調したあげく
「劇団のアルバイトと思えば良いんじゃない? とりあえずは物置にでも置いといて」
という結論をだした。10万円はでかいのだ。きっと先輩は僕に頼む。彼女を作れる筈がないのだから。

もっとも、今は受験で忙しい。学校に行っても誰も僕の体型や顔の若干の変化なんか気にしない。声が少し高く柔らかくなったので、風邪ではないかと心配されている程度だ。もしかしたら変な視線を向ける女子がいるかも知れないが、僕はそれに付き合うほど暇ではない。

-------- 別バージョン ------------

2日後、無事にウイッグと偽乳ははずして貰い、顔も「もったいない」と言われつつ元通りにしてもらったのだが、コルセットは外れさずにいるし、それゆえにガードルも外せていない。正確には股間部だけ男に戻ったものの(女性器の部分からびりびりと破られた。あっけなかった)、他は戻していない。というのも、着付師から話を聞いた先輩が、3月にもう一度女装して欲しいから、目立たないところはそのままにしてほしいと言ってきたからだ。
「ここで外してゼロからやり直したら、次の報酬は5万円、そうでなければ15万円」
と言われたら僕も悩む。でも、ここは交渉だ。
「呼吸が苦しくて受験に失敗したらどうするんですか?」
と譲歩をもとめると
「え、まだ呼吸が苦しいの?」
と逆に質問された。確かに苦しくない。なれたのか?
交渉材料を出してしまった僕は反論で一気に不利になり、そのまま女性体型で家に帰った。

胸は無いし、男の股間だし、顔も髪も元の僕なので、母親も僕である事を正式に認めたけど、声が高いままなのはおかしく、低い声を出すようには努力中だ。でも、声帯だけでなく肋骨の骨格が女の子のそれで低い声が出せる筈も無く
「受験勉強疲れの長い風邪」
で回りには納得して貰っている。あと、受験生の体育は3学期はほとんどないので、全欠席で困らない。だから僕の体型がクラスメートにばれる筈はない。そう、その筈だ。回りがどんな怪訝な目で僕を見ていようとも。僕の美人顔を見ていようとも。

========== サイズ参照 ==========
日本の婦人服(標準体型:裸での値)
9号  83-64-91
11号 86-67-93
13号 89-73-95
米国の婦人服(標準体型:裸での値)
4  85-62-90
6  88-65-93
8  91-68-96
なので、本番の86-68-94は、日本の11号に相当し、翌朝の85-66-94、より尻の大きい米国基準サイズ6に相当する。

天使の声に惑わされて:3 - 夢喰

2016/12/25 (Sun) 16:23:47

 ラジオの話はクラスメートにはまだ知られていない。AMのラジオなんて小学生が聞いたりはしないものね。もちろん自慢したい気持ちはあったけれど、顔の出ないラジオで女声で歌っていたんじゃ僕だとは分からないし、それを主張でもしようものなら、まるで僕が女の子のふりをしている変態のように見られる気がして、怖かったから。そんなことが広まったら、それこそ無理やり女装させられそうな気がするんだ。あるとき、体育が終わった後の着替えで、自分の服が練習で使うワンピースにすり替えられている悪夢を見たことあって、それ以来、体育が終わったあとに自分の服が残っているのをみてホッとしているぐらいだもの。
 あと、お父さんの
「練習ってのは人知れずやったほうが格好いいだろ?」
というのも、誰にも言わなかった理由のひとつだ。いや、誰にも言わない言い訳というべきかな。とにかく、そんな感じで、3学期が進んでいった。
 そんな折、僕がラジオのコマーシャルで得た自信をへし折ることがあった。それは音楽の授業で歌うことになった「とうりゃんせ」だ。というのも、mpから聞かせれる女の子の声が、まさに鈴の音のようで今のぼくにはとっても出せそうにななかったから。
 何故そんなことまで考えながらとうりゃんせを聞いたかというと、お父さんが音楽の教科書をめくって、この曲がある事に気付いた翌日に、ぼくに男声女声の違いを説明しながらmpを聞かせてくれたからだ。父さんの言うのはもっともだ。クリスマスの曲は「天上の声」のイメージだったからボーイソプラノで良かったけど、日本の童謡の女の子向けの歌って、たしかに「鈴の音」としかいいようのなく、ボーイソプラノじゃ力強すぎて駄目なんだよね。日本は男声と女声でなく、男童の声と女童の声を使い分ける国らしい。
 で、お父さんに言わせると、この女童の声が出せなければ日本一のボーイソプラノとは言えないらしい。響き過ぎるソプラノではなく、鈴の音のようなか弱いソプラノ。それが出せればもの凄い希少価値らしい。それは僕にもわかる。響かないけど遠くに届く鈴の音。それにほど今のぼくの実力から遠いことを実感したので、ラジオに出て高くなった鼻が完全にへし折られてしまった。
 こうなると、意地でもとうりゃんせを女童の声で出したい。だれが聞いてもぼくと同じかちょっと小さいぐらいの女の子が歌っているとしか思えないような声。それは確かに究極だ。とうりゃんせだけでない、かごめ、さくら、手鞠唄、子守唄。そして、そんな声で恋歌を歌う。なんて新鮮なんだろう! 女童の声をだせる時を夢想するとうっとりする。そこに女装がペアでついて来るなんてことは、夢想から全く抜け落ちていた。
 女童の声を出すには、体の骨格が共鳴しすぎないことが肝要らしい。そう、お父さんが例の模型で説明してくれた。男と女は生まれた時から骨格の違っていて、レントゲンでプロが見れば一発なんだって。へえ。『第二次セイチョウ』とかいうので異なって来るんだよ、ってクラスメートの誰かが行ってたけど、やっぱり、彼の知ったかぶりだったんだな。ともかくも、声の違いの理由の一つである骨格の違いを誤摩化す為に、骨格を共鳴を押さえる仕掛けが必要で、コルセットもその一つみたい。模型で実験すると確かにそんな気がするし、なによりコルセットをして歌うと、声が少しだけ声が澄む事は2学期に実感している。その先に女童の鈴の音がありそうな予感は感ずる。
 実際、録音した僕の声を聞くと、コルセットをしている時の方が鈴の音に近い。このコルセットは大人の女の人が使うコルセットと違って、お父さんのお父さんん手作りで、材料は僕の昔の下着シャツ、それも伸縮性があまりない代わりに涼しい麻地のやつなので、手作りゆえに不格好で、友達に見られるのはちょっと恥ずかしいけど着る分には全然抵抗がないし、もともと下着なので長時間着てもそこまで苦にならない。そして、お父さんの説明では、一日16時間、毎日つけれ続ければ、歌の時だけコルセットを外しても声が細いままで暫くは歌えるし、歌の時だけより強力なコルセットで振動を完全に抑え込めば、骨に響かない歌い方も出来る筈だって。そして成長期の僕は8時間以上コルセットを外すと骨格が元に戻ってしまうらしい。
 だから僕は、例の上体コルセットを常時、夜も着るようになった。着ないのは学校に行っている時だけ。お母さんが『体に悪くないかしら』と聞いて来たけど、今、どんなに体を細くてもした所で、例の『第二次セイチョウ』になったら男の子は否応無しに太い体になるらしい。お父さんに云わせると、コルセットごときで10年後の体に影響が出るなら、とっくに誰かがやって専用歌手が生まれている筈だって。確かにそうだ。
 後日気になって、お父さんの説明の根拠を調べたんだけど、コルセット16時間の話も、成長に影響を出さないって話も、どこにも見つからなかった。でも、他の説明、例えば1日8時間で十分と言う話も根拠が見つからなかず、論理的な説得力はお父さんの話の方が正しそうだったので、この先、僕はずっとコルセットをするようになったし、それどころか次第にきつめのコルセットを使うようになった。きつめと言っても、二枚重ねとか、伸びない生地を使った手作りとかそういうレベルだけど。
 こうして骨格すら絞って練習したものの、音楽の授業までに理想の声にはならず、単純に「男の子なのに声が小さい」と注意されるほどだった。そりゃ、1ヶ月で成果が出るならお父さんの云う通り、誰かがやっているよね。でも、僕は、とうりゃんせ授業の3週間で変化を感じていた。それは小父さんも同じらしく、始めはコルセットをよりキツくする事にも、コルセットを常時着用する事にも
「そこまで意味はないと思うけど」
と消極的だったにの、1ヶ月もすると、
「うん、確かに、声は少し澄んで来たなあ」
「でも体に良くないから程々にな」
という言い方に変わった。
 体に悪いって、小父さん達のお酒だってそうじゃない。これだから大人は信用ならない。それにお父さんに「体が良くない」のかどうか尋ねたら、それは肋骨に守られていない内蔵を締めるタイプのコルセットの話であって、肋骨を締めるのは骨折の時に骨を支えるギブスと同じだから、話が違うと説明してくれた。うん、そうだそうだ。僕がネットで調べても内蔵の圧迫の話ばかりで骨の話は無かったんだよね。やっぱり理論はお父さんだな。
 体に良い悪いはともかく、懐疑的な小父さんですら僕の声が女童声に少しずつ近づいているのを認めてた。だから、コルセットを着ている時は、歌だけでなく日常か会話でも鈴の音が出るように喋り方の努力を始めたんだ。本当は学校でも発声訓練をしたかったけれど、そんな事をすると、僕の事を女の子になりたがっている変態って思われそうで出来なかった。だって、2学期の『しょーたん』というあだ名や、3学期にはいって何度かみた悪夢、それに、歌の練習に行く時に男物のジャンパーこそ羽織っているものの、セーラー服とキュロットらしきズボンで外を歩いているのを誰かに気付かれているんじゃないかという不安で、変態疑惑が現実になりそうな不安があったから。
 特に服は、男物だと思い込もうとすればするほど、これが実は女の子の格好そのものではないかという気がしてくる。しかも骨格まで女の子のそれに近づけようとしているんだから。気にならない方がおかしい。いくら、歌の為であり、歌っている時なら明らかな女装であるワンピースにすら慣れて来たとは言え、移動中、他人から見れば女装に見えるのは気になるそして、この不安は、女童声の練習が第二段階、つまりコルセット着用時の日常会話の女童声訓練を始めてから、大きくなり始めた。僕のやっている事って、知らない人が見ると女の子のふりをしている事になるのだから。いくら、ジャンパーと靴と靴下と髪型が男の子だとは言え、気になるものは気になる。
 でも、今更、以前のようにスタジオで着替えるスタイルに戻る訳にはいかない。だって、恥ずかしいって思い始めたことを小父さんや両親に知られると、なんだかプロ意識が足りないとか、本心では女装に興味があるのではないかと勘ぐられないかとか、いろいろ気になるんだ。それどころか、意識すればするほど、逆に「意識していません」をアピールしなければならない気分になってしまう。例えばワンピース着用時の靴下とか、髪型とか。それに、少年合唱団の制服のつもりの筈のセーラー服とて、下がキュロットだと意識すればするほど女装に思えてしまって、スタジオでの練習では、それに相応しい靴下とかを履かなければならない気がして来る。さすがに女物は恥ずかしいけど、男物を履くのも場違いで、プロ意識を疑われるように思えてしまう。髪の毛も同じ。そんな訳で、3学期は髪の毛を一度も切る事が出来ず、靴下も中性的なものしか履かなくなってしまった。
 そんな苦労が実って、3月に入ると、少しだけ鈴の音に近づいた声が出せるようになった。コルセットの効果はそれだけではなく、普通に発声しても女の子っぽいソプラノになって来たんだ。そうなると、そろそろ発表の場が欲しくなる。お父さんが何かアレンジしてくれないかな、小父さんはどうだろうな、ラジオはまたあるのかな、と期待していたけど、何の音沙汰もなく、痺れを切らせてお父さんに尋ねたら、クラスの発表会で歌えば良いだろうと言って来た。うわ、それはちょっとビビる。
 僕の学校ではどのクラスも年に1〜2度、主に3月に学芸会とかお別れ会とかいう名の、皆の発表の日がある。劇だとか、歌だとか、楽器だとか、漫才だとかそんなの。土曜日も隔週で登校する僕の学校では、学級会の時間、要するに色々と議論をしたりする時間が土曜日にあるのだけど、それを2回分まとめて2時間ぶっ続けでそういうお楽しみ会を開く。歌を披露するには確かに最高の場所だ。特に2学期に練習していた奴だったなら。
 でも、3学期に力を入れて練習しているのは、女童の声で、そりゃ、まあ、他の曲も練習はしているけど、成果の発表という意味だと女童のわらべ歌が良い。でも、これってクリスマス会や誕生会のように大人向けに歌うのは良いけど、クラスメートの前で歌ってもなあ、って気がするし、それ以前にクラスメートの前で女声を出すことが恥ずかしいし、下手すると、「女になりたいのか」とか「女装しろよ」とか囃されそうな気がするんだ。
 とは言え、こんな不安をお父さんや小父さんに言っても「プロ意識が足りない」と逆に叱られそうで怖い。それに、学芸会で普通に歌うんじゃだめで、何か芸をしなくちゃならないんだ。その意味では思い切った女装が良いのかも知れない。冷静にそう思っても、普段クラスの皆に隠れて女装しているんだ、という意識で、却って思いきれず、誕生日に来てくれた女子にわざわざ相談して、やっとセーラー服の決心がついたんだ。この女子なら僕のセーラー服を後押ししてくれるだろうって踏んでいたら、やっぱり推薦してくれた。それでも恥ずかしいから
「でも、恥ずかしいから、一緒に歌ってくれない?」
って誘って、デュエットになって、女子には男の格好で男性パートを歌うって形にしたから、そこまで騒がれることはないと思う。
 こうして迎えた学芸会は、ちょっと調子抜けだった、だって、劇で堂々と女装している男子が2〜3人いて笑いをとっていたから。僕の悩みは何だったんだろう。セーラー服という、女装に見える男子服、いやズボンはキュロットに違いないと思うから半分女装なのか、まあ、そんな中途半端な格好で歌ったのが恥ずかしい。そういう中途半端さは、相棒の女子も感じたのか、発表直前に髪の毛をちょっと弄って、髪飾りともいえるリボンをつけることにした。これだとセーラー服も女物っぽくみえるよね。
 こうして僕の番は済んで、学芸会後も、歌が良かったとか、格好もぴったりだったと褒められた。もっとも、格好がぴったりという意味は、あとからよくよく考えると、僕の容姿が女装向きという意味かもしれないと気付いて、おもわず恥ずかしくなったけど。いや、恥ずかしいというより、なんだか、男の子の仲間から外されるんじゃないかという不安もあるかも。
 理由はともかく、女童声の価値が実感できて、僕はますます磨きをかけるようになった。こうして3年生を終えて4年になったのだけど、その時、良いことがあった。それは身体測定で、胸囲が昨年と全く同じだったことだ。いや、2ミリ伸びたのかな。その程度。背のほうは昨年より3センチほど伸びているので(平均は5センチだそうだ)、相対的にほっそりしたきたってことになる。身長の伸びが平均以下なのも、去年までだったが嫌だっただろうけど、今年は「大人になるのが遅くなるそうだ」って思えて却って嬉しい。この調子なら。より長い期間、ボーイソプラノを続けられる。
 もちろん、男の子としては大きくなりたいし、このまま将来も背が小さいままで終わるんじゃなかろうか、という不安もあるけど、お父さんのいう「大器晩成ほど大きな体になる」との言葉を信じれば問題ない。唯一不便なのは、背の高さで、今まで男子18人中前から7番目だったのが、前から4番目になってしまったこと。それでも、僕より小さい奴が3人いるから問題ない。胸囲は比較していないから分からないけど、僕が一番細いかもしれない。細いって、デブの反対だから、ちょっと鼻が高いや。そう、この頃の僕は胸囲が小さいことが恥ずかしいことなんて全く思っていなかったんだ。
 ともかくも、僕はコルセットの効果を実感した。だから、学校でも体育の無い日で、寒くて上着を着るような日は使うようになった。

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 【クラスの男の子視点】
 翔太って、今年になって変わったよな。なんか、上品ぶっているっていうか。元々運動神経が鈍い奴だったけど、去年あたりからは昼休みのドッジボールに加わらなくなって、今年皆で流行った相撲にも全然顔を出さない。水泳の時の体付きがひょろひょろなのも当然だよな。このままじゃ困るだろうって親切心で放課後に声をかけても、付き合い悪い。歌の練習があるからって言ってたけど、音楽の時間、縦笛で四苦八苦して、歌も声が小さいと注意されてるの知ってるぞ。お坊ちゃん? そんな感じ。それだから、いつまでも顔も格好良くなれないんだぜ。
 そうこうして2学期のある日、女子が翔太のことを「しょーたん」って呼んだことが2〜3度あって、そのあだ名に納得したぜ。だって、全然覇気がないものな。ゲームもしないみたいだし、仲間に引き入れようにも、とっかかりがないんだよな。そのくせ女子が教室内のキーボードを弾いていると、そこに近づいていく。軟弱野郎が。男の風上にもおけない。女の子と仲良くやってればいいんだよ。
 以前はそう思っていた。でも、学芸会で翔太の歌を聴いて、ちょっと見る目が変わった。可愛い声って思ってしまったんだ。女子が一緒に歌っていたから、もしかしたら女子のほうの声かとも思ったけど、そっちは男の子パートを確かに歌っていて、そうなると残るは翔太、いや、しょーたんと言うべきかな。
 あのセーラー服も似合っているし、と思ったら、髪の毛伸ばしてんじゃん。偉い偉い。問題はズボンかな。芸に徹するならキュロットじゃなくてスカートにすべきだろ。まあ、でもほとんど女装に近い格好で、ほんとうに可愛い女の子の声で歌うのは褒めてやるぜ。
 あとから聞いたら、週に4〜5回も歌の練習に行っているんだって。うん、分かった。これから昼休みも放課後は誘わないからな。ちゃんと歌を磨けよ。知り合いに男の娘がいたら、他の友達に自慢できるしな。

キスを奪え! - 夢喰

2016/01/10 (Sun) 18:48:25

「キスを奪え」鬼ごっこ企画概要

 女性が多くの男性から申し込まれるシチュエーションや男性が多くの女性から思われるハーレムは、恋愛フィクションの世界では人気のある分野であり、その中で、迫られる異性から逃げる「鈍感」「ヘタレ」系は、誰が主人公を最初に射止めるのかと言う興味を合わさって一定の人気がある。そこに鬼ごっこの要素を加えるのが本企画の原点である。具体的には、複数の挑戦者がターゲットの唇を奪う鬼ごっこを繰り広げる様子を放映することを想定する。

(1) 一般参加型の恋愛ゲーム、例えばお見合いゲームや告白ゲームは、手軽かつ安価でゴールデンアワーの視聴率を稼げることはよく知られている。従って挑戦者は一般参加が望ましい。ターゲットは理想的にはアイドルだが、アイドル恋愛がタブーである現実と、費用対効果を考慮すると、これも一般参加が望ましい。

(2) セクハラが過剰に問題視される昨今、女性を男性が追いつめてキスするという内容は、レイプを煽動すると受け止められかねないので、キスを奪われる側は男であることが望ましい。しかしながら、追いかける側が男性の姿であるほうが、想定視聴者の欲求を満たすであろうことも考慮に入なければならない。故に男装の女性が女装の男性の唇を奪うという形態が妥当と思われる。理想的には小柄な華奢な男性(体格的には第二次性徴直前が望ましい)を、男装の似合う女性が追いかける形だと、体力的にも釣り合ってくる。

(3) ゲームの要素を高める形で、なおかつレイプ要素を減らすべく、成功報酬として祝い金(5〜10万円、芸術点込み)を新カップルに贈呈ことも望ましい。未成年の場合は、現金の授受の代わりに現物支給にするオプションも考慮すべきである。また、追いかける女性役の参加者の最終選考(5名程度)は、追いかけられる側の参加者が決めるのが好ましい。この場合だと、誰に唇を奪われても、契約書にある限り、社会的にも法的にも問題ない筈である。

(4) ゲーム要素を高める追加措置として、唇を奪う側に男性を数名混ぜるのも一考である。この場合、奪われる側にも女性を加え、たとえば10〜15名の参加者が3名(男2女1)を追いかけるという形になる。複数対複数であれば、レイプ煽動という批判も防げると思われる。番組を1〜2部に分けて、両方を行なえば1時間番組が可能となる。

(5)複数対複数の場合、参加者の選考は、女性の追いかけ側、男性のターゲット、男性の追いかけ側、女性のターゲットの順で決めるのが望ましい。特に女性のターゲットの募集は、追いかけ側全員の顔写真が公開されたあとに行なわれるべきである。

(6)なお、追いかける側には、3人のターゲットのうちの誰が本物の女性で誰が女装男子なのかを伏せることで、読者の興味は更に高められると思われる。運悪く同性にキスした場合、成功報酬の「慰労金」という形でターゲットにのみ与えられ、追いかけた側には罰ゲームを課すことでバランスを取る

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「ほっぺたを奪え」サバイバルゲーム要項
【注:上記「キスを奪え」鬼ごっこの項目(4)から派生した新しいゲーム】

(1)1チーム男子5名女子5名とする。
(2)衣装は学生服またはワイシャツ男子服5人分とセーラー服(夏物でも冬物でも良い)5人分とする。
(3)チームの区別は学年章にあたるバッジで行なう。
(4)基本はほっぺたへのキスを奪った者が勝ち。ただし、色々な状況を考えて得点制度にすると、よりスリリングになる。
(5)キスした者とされた者は、その時点でゲーム離脱となり、残りのメンバーでゲームを続行する。
(6)対戦チームの異性のほっぺたにキスすることで得点(+3点)とする。
(7)間違って同性のほっぺたにキスした場合は減点(ー2点)とし、更にこの場合はキスされた側も減点(ー1点)とする。
(8)唇にキスした場合、異性であれば双方に祝福点(+1点)を与え、同性であれば双方にダメージ点(ー3点)を課す。
(9)間違ってチーム内でキスした場合、同性異性を問わず罰点(計ー2点)とし、そのまま続行する。
(10)制限時間内にキスできなかった場合、罰点(一人当たりー2点)を課す。
(11)制限時間は交戦領域の多寡に従って変更するものとする。3階建て校舎2棟の場合、30分を標準とする。
 注:条項6−8の得点配分や条項10はトーナメント戦では不要だが、リーグ戦では重要な要素となる。
【注:要項には書かないが、必ずしも男が学生服、女がセーラー服とは限らない】

* 勝つ為には誰かが女装男装するのが戦術的に正しい。特にセーラー服は、下着が透ける材質だと敵を更にごまかしやすい。逆に男物は下着が透けないものから始まるだろうが、本気で勝ちにいくなら、敢えてワイシャツにして、ノーブラ女子を投入するとか、或いは男子に下着女装をさせて「男装した女子」を演ずる撹乱作戦もありうる。

仮想男子 第3話 - 夢喰

2016/01/10 (Sun) 18:09:05

目の前にいるのは美形男子が2人。私を取り合ってこれから一騎打ちだ。やっとここまでこれた。どちらかが勝てば、いや引き分けですら私は今までの束縛から自由になる。

男達の賞品なら、自由もなにもないではないか? そんなことはけっしてない。だからこそ取り合われる立場になるのに私だって勝ち抜いてきたのだ。その為には努力以上のものが必要だった。だって、男達を魅惑するほどの容姿や振る舞いにならないと、そもそも取り合われる立場になれないからだ。化粧や服、言葉遣い、髪の毛だけでは全然だめで、後ろ姿も、横からの姿、夕闇の中の輪郭は云うに及ばず、歩き方や座り方、呼吸、声の響き、骨の細さに至るまで、男の性欲や保護欲をそそらせるようなものでなければならないのだ。それがある程度できるようになって、ようやく街に出される。そして、そこで1週間に1000人以上の男達から欲望の目で見られた者だけが、賞品候補にノミネートされる。もちろん、その間、私は複数の審査員に陰から監視されていて、1週間に300人未満の注目しか浴びなかったら、更なる「女の魅力」トレーニングが課せられる。そう、まるでスパイ養成所や新興宗教の勧誘員養成所のように。

ここまでクリアしても、あくまで候補だ。イベント当日の人気投票を経て、その上位3人だけが賞品にえらばれるのだ。人気投票は記名・無記名のいずれでも構わないが、記名した場合は、私を手に入れる為の一騎打ちに参加する権利を得る。もっとも、一騎打ちに参加できるのは2人だけだから、参加希望者の方にも審査があって、2人が選ばれるのだ。美形ばかりなのは偶然ではない。

目の前の一騎打ちの勝者には私が与えられる。それは確かに間違いないが、実情は少し違う。一騎打ちの終わったころには、私なぞ見向きもしなくなる筈だからだ。そして、私も1年前まではそれに騙されていた。

闘いは、運動能力、格闘、知識、思考力、判断力、ネタ能力、女性心理の理解など、幅広く「人間の魅力」が試される、まさに雌雄を決する15戦マッチだ。そして、一戦あたりの得点がスライドして高くなるので、最終戦までどちらが勝つかわからない。具体的には第1〜10戦目(主にクイズ)が1点、第11〜12戦目(運動能力)が3点、第13〜14戦目(競技)が5点、第15戦目(格闘)が0〜9点の合計26〜35点制度だ。

賞品がでかい故に、敗者にもそれ相応のペナルティーがある。拒否できない雰囲気であるばかりか、実際に、拒否したら大きなしっぺ返しがある。下手したら、この世界からこっそりと消されてしまうのだ。私が普通に逃げられないのも、これが怖いからだ。

ペナルティーは、雌雄を決するという言葉どおりの「雌」化、つまり女装だ。1回負けるごとに、1ヶ所ずつ、女装が加えられる。具体的には、着替えが上のアウター(ブラウスまたはワンピース)、下のアウター(スカート)、上のインナー(キャミとブラジャーかブラジャーのみ)、下のインナー(ショーツかガードル)、靴下、靴(ヒール)の6種類で、他にウイッグ(付け毛)、メイクアップ、脱毛、コルセット(肋骨全体を締め付ける)、偽乳(Bカップ)、偽乳(Dカップ)、偽尻(タックを含む)、偽首(声変換装置とうなじ)がある。これらから選べるのだ。負けるたびに更衣室につれていかれるが、この更衣室から出て来る瞬間も、観客に人気のあるイベントだ。

一応、3回連続して勝つと、2ヶ所分の女装を解けるという救済策はあるものの、クイズの場合は、2人とも不正解なら2人とも負けとみなされるから、勝負がつく前には双方とも「美女装」状態になっているのが普通だ。現に目の前の2人もクイズが終わった段階で、3問、両方に答えられない問いがあり、連続正解があったにも関わらず、2人の女装度は1人が7(正解3)、もう一人が4(正解4)と、勝っている方ですら、ちょっとした美人に化けかかっている。点差は1点だから、勝負がつくのは最速で第14戦目だ。

こうして試合を見ていると、1年前の苦い経験を思い出す。何を隠そう、私も参加者だったのだ。女装度9で迎えた最終戦で逆転勝ちを得たものの、動き難いスカートやヒールを避けるべく、メイクアップや偽尻、Bカップを選んだのが仇となって、自力で外せず男の姿に戻れなかった。しかも、貴賓席に座っている賞品女性の元に近づくと、思ったより大柄で男の体型、化粧も無しだ。一騎打ちの2人が女性化するにつれて、その分、元の男の姿に戻れるらしいというのはこのとき聞いた。2人立ち並べると、男が賞品美女を獲得したのでなく、美女装男が美男を獲得したかのような形だ。

ショックに打ちひしがれている私にささやいたのが大会運営だ。もしもこのイベントに協力するなら、素晴らしい待遇と、努力次第でよりモテる男姿と、特殊技術を授けると。判断力を失った私は「YES」を押してしまった。どうせこれはゲームの世界だから、女装を極めるのも悪くないと。その結果、現実世界でも女装を始めるようになってしまったのは想定外だったが。始めはゲーム機前で、次第に家の中、そして外で。いまや私は女スパイとしてのプロの知識をもっている。

あ、決勝戦までもつれ込んだ。女装度は10対5。お陰で今の私は、アウターと顔立ちを除けば元の男の姿だ。そして、私が男に戻るかわりに、きっと新しく2人が女になっていくだろう。そう思いながら、もはや美女としか思えない2人が格闘している。相手を地面に押さえつけて、どこでも良いからキスを奪えば勝ち。服でも良いが、それは0点。手で1点、顔で3点、唇だと9点。得点差は7点だから逆転には唇しかない。はらはらどきどきして見ていたら、大逆転劇が起こった。

唇を奪われた美男が更衣室につれていかれる。表彰式の前に、女装度11を披露するのだ。そう、最後に勝った側の女装度を1上回るだけの女装が最終戦ペナルッティー。雌雄を決するのだから、勝った側より女らしくする必要があるとのことだ。

これで、この2人は私の後輩になるだろう。卒業生の私は、彼らが女装を極め、女を極めて行く様子を見ていく権利がある。臨時講師すらやらせてもらえるらしい。ちょっと楽しみだ。1年間の女装地獄は無駄ではなかったと今にして思う。

仮想男子 第4話 - 夢喰

2015/08/09 (Sun) 23:25:49

 ショック死の問題さえ解決すれば、3次元新型ゲームは市場を席巻できる。そこで考えられた折衷案が、危険フラグで神殿送りにするというものであった。つまり達人の勝負でよくあるように、死角を取られたら負けというシステムだ。。死角を取られただけ、或いはタイミングを外しただけで、もしも現実ならそれから逆転が可能でも、ゲームでは死に戻りとなる。
 もっとも、負けを納得させる為に、神殿にはディスプレイが設置されていて、判定前後の動きの第3者視点のシミュレーションを本人の希望で見ることが出来るようになっている。再現シミュレーションに登場するのは、本人のアバターでなく、マネキンのような共通モデルだ。というのも、本人が悪夢でショック死とかなったら困るからだ。更に、本人の加速を実感させる為に、レベルが上がるほど、加速スキル使用中はモンスターが遅く動いて見えるように調整するので、危機の感覚が現実にフィードバックしにくくなる。
 こうして売り出された3次元ゲームで、剣使い職や盾使い職より、魔法職に人気が集まるのは当然だろう。というのも魔法の打ち合いは余りに非現実的なので、かなりギリギリの線まで闘えるからだ。そもそも、ゲームでは魔法攻撃職と剣使い職が人気が高く、盾使いや回復職はロールプレーのみの需要しかない。そういう需要の偏りは単体ゲームでは問題にならなくとも、MMOに移植するとなるとかなり厳しいのである。それを解決するのに、各社とも不人気職へのてこ入れを図った。
 そんな中、独自路線を打ち出したゲームが売り出された。なんと、魔法攻撃職の専用アイテムがことごとく女物デザインになっているのである。
<続く>

魚の目 - 夢喰

2015/07/30 (Thu) 17:54:55

 背が中々伸びないので、入学祝いで買って貰った自転車が未だに大きすぎる。だから硬いサドルの天辺に尻を引っ掛けて乗っているが、そのためにアソコの付け根が当たって、どうにも居心地が落ち着かない。
 ある時、刺か何かがサドルについていて、それがズボンを透して付け根に刺さった。その時はチクッとした感じに何か刺さったかもしれないと思いつつも、友達と一緒だったので、そのまま乗り続け、いつしか忘れてしまった。こうして気を止めないうちに何日も普通に過ごしたけど、あとから思えば、この時の刺だと思う。
 かゆみのような傷みは一向に収まらず、それどころか次第にアソコの付け根にタコが出来始めて、2週間も経つとひりひりと痛くなった。まさかこれが魚の目だなんて、この時は全然思いもよらず、これは「自転車ダコ」なのだな、と勝手に思い込んでしまった。
 魚の目は、次第に穴が開いていく。そして芯を取らない限り治らない。しかし、そんな知識なんて魚の目に苦しんだ人間ぐらいしかないだろう。しかも、場所が場所だけに家族に見せる訳にもいかない。友達にだって知られるわけにはいかない。「痔」と囃されるのがオチで、下手をするとイジメの対象にすらなってしまう。だから、痛いのをひたすら我慢をして、無理して自転車にも乗り続けた。そんな不養生で、いつしか魚の目の穴が直径1センチぐらいに開いてしまった。痛い、痛い。

 そんな時に聞きかじったのが、半陰陽という言葉。検索すると、尿道下裂という症状が簡単なポンチ絵付きで出て来る。ああ、そっくりだと思った瞬間、冷や汗が出た。これとはきっと違うんだと否定する気持と裏腹に、自分は普通の男じゃないんだという強烈な喪失感と、自分は他人とは違うんだという奇妙な自慢がないまぜになる。
 なるほど背が中々伸びないのも理解できる。実はボクはそんなに背の高い方じゃない。チビではないけど伸びない気がするのだ。状況証拠がそろって、現に傷みが止まらない以上、本当なら医者に行くべきだけだ。でも診断という儀式が怖くてとても行けない。
 それでも、生活は少し変わった。だって、尿道下裂という名前の意味するところは、小便がそこから出る可能性があるということだから。それがいつ始まるか分からないので、立って小便をするのが怖くなった。だから家では必ず座って用を足す。それに、ボクがもしも半陰陽なら、将来、女子トイレを使わざるを得なくなるかも知れないので。もっとも、学校ではリスク承知でアサガオを使う。だって個室に入ると囃されるし、いきなり小便が下から出るとも思えないから。

 座って用を足すようになって更に1週間もすると、魚の目の中がイソギンチャクのように筋になってきた。気持が悪いので一本、二本と筋を抜くと、血が出た。もしかしたらこれは単なる怪我で、血の再現力で治るかも、と希望を持ったが甘かった。魚の目は芯を抜かないと治らない。この時は魚の目と知らないから、治らない理由が分からない。だから1週間後には元の木阿弥で、悪くなりこそすれ、治る気配はない。
 それはともかくも、血の処理には困った。バンドエイド程度では足りないからだ。結局、ガーゼとか脱脂綿とかいろいろ当てて何とかしたが、そんなものは、自転車のサドルに座ったら直ぐにずれる。結局、パンツに血がついただけのこととなった。
 尿道下裂と出血で検索すると、出て来るのは生理だ。それを見た時、死刑宣告を受けた気分になった。男の子では無くなってしまうんだと。

 その日以来、3日続けて血が出て、4日目にやっと収まった。収まるといってもサドルで擦れなければの話なので、自転車にのる直前に脱脂綿の位置を下裂部に当てて出血を抑えている。下裂のことを家族にも知られたくなかったので、パンツを洗濯機に放り込む前に手洗いで証拠を消して、母親に知られるのは避けた。もちろん、このままではいけないと分かっている。何よりも痛い。クロッチがあるショーツを履くと良いんだろうな、とは思いつつも、それも恥ずかしくて言い出せない。
 そうこうするうちに救急箱のガーゼと脱脂綿が切れた。バンドエイドもだ。うっかり、母親にそのことを告げたら、どこか怪我したのか追究された。十分な筈のストックが無くなれば、どんな母親だって同じことを考えるだろう。小遣いで補充しなかったミスだ。
 これが今回だけなら、もう治ったから気にしなくて良い、とその場は誤摩化すことも出来るだろう。でも、この先もガーゼ類が減ることは目に見えているし、何よりもいつかは母親にボクが半陰陽かも知れないことを話さないといけないのだ。ただただ、それを言ってしまうと、自分で自分に死刑宣言してしまうことになってしまいそうで怖かった。ボクは男を失いたくはないんだ。
 結局、お尻のサドルに当たるとことが痛い、と症状だけを答えた。幸運にも痔と勘違いしてくれた。今はこれで良い。

 出血から2週間もすると、下裂部のイソギンチャクのような筋が更に深く切り込んで、それがサドル+脱脂綿の圧迫で、痛みが激しくなった。そんな筋のうちに、とりわけ痛いやつを抜くと、前回以上の出血が始まった。慌てて、ガーゼなどで処置するものの、パンツには当然血がつく。ただ、母親は痔と勘違いしているから、もはや隠す必要はない。むしろ、痔の治療中でガーゼとかの補充が必要というアピールを込めて、洗わずに洗濯機に入れておいた。数日後、予想通り母親に気付かれた。
 計画通りと思ったが母親の様子がおかしい。それは、どのパンツも肛門部でなく、クロッチ部のど真ん中が赤くなっていたからで、母親から、どこが出血しているか尋問を受けた。
 ボクとて分かっている。認めなければならないのだ。ただ、自分の口から「女の子になった」なんて言えないので、症状だけを出来るだけ冷静に告げる。おチンチンの下にタコができて、それが時々裂ける、と。
 母親は黙って考えあぐねている。きっと察してくれたんだろうな。ここは、畳み掛けて、タコのところが分厚いパンツが良いと思う、と提案したら、母親も、それにのってくれた。様子見として最適だと考えたのか、あるいは、医者に見せても半陰陽は病気じゃないのでどうにもならないと思ったのか、もしくはボクと同じくショックで考える余裕がなかったのか。ともかくも、早速生理ナプキンと、それをしっかり支えられる弾力性のあるショーツを買ってくれた。

 ショーツは始めのうちは男の象徴の処理に困ったけど、下裂部には確かに優しく、1週間履いただけで、もはや手放せなくなっている。出血は今回も3日ほどで終わったので、生理ナプキンは外しているが、それでも優しさが違う。もう止められない。
 問題は体育の着替えだけど、始めからハーフパンツをズボンの下に履いているから大丈夫だ。ハーフパンツを頑張って下に下ろしたら、トランクス同様、アサガオはちゃんとつかえる。なんでも統計によると、男の子でパンツの窓を使っているのって少数派だそうだ。
 こうして、毎日ショーツを履き続けると、なんだかキャミッソールやブラジャーもつけてみたい気がしてきた。特別な存在なんだから、そのくらいの好奇心はいいよね。そんなことを思って3週間ほどするうちに、またも下裂部のイソギンチャクが痛くなったので、取り除いた。大した出血でもないので脱脂綿で誤摩化したら、やっぱりショーツに血がついた。

 その2日後、母親から生理ナプキンをするように叱られた。前回は生理ナプキンが便利かもしれない言い方だったのに、今回は生理ナプキンをするのが当然みたいな言い方だ。もしかすると、これって本当に生理で、やっぱり半陰陽の、しかも女の子に近いタイプで、このまま女の子になってしまうの? と不安に思う。
 男の子でなるなる不安に夜も寝られないのに、翌日には、母親が、タンクトップに近いプラトップを買って来て、今後、他人に乳首を見せてはいけないと言い含められてしまった。確かに、キャミッソールやブラジャーもつけてみたい気がはしたけど、それを着続けるのを強制されるとなると話は違い。いやだ、いやだ。そもそも、息子にブラトップを勧める母親って何だよ、と思いつつも、息子じゃなくて娘として扱ってのは当然なのかも知れない。強烈な喪失感が襲う。
 それはともかくも、体育の着替えが更に厄介になった。体操服の下に薄地のアンダーウエアを着ているから裸にはならないが、そのうちこれも乳首の透ける男物でなく、乳首を守る女物にせざるを得なくなるだろう。そして、女性下着いうのは、女の肌以上に男に見せてはいけないものだ。
 そうは言っても、男の胸なので、問題はない筈だ。少なくとも水泳までは、最低限の注意をすれば気付かれまい。
 しかし、現実はそう甘くない。というのも、体育のない日は、将来のことも考えて、プラトップを使ってみたくなるというのは人情だからだ。そして、そういうことが何度かあれば、目敏い女子に下着ラインを気付かれるのは時間の問題だからだ。
 結局、2週間もしないうちに、噂が大きくなって、男子にシャツを脱がされて白日のもとに曝さた。ついでにいつもハーフパンツをズボンの下に履いていることがやり玉にあがって、出血の事実を言わされていまった。

 生理は女の子の秘事だ。それを暴いた形になった男子は、直後に女子から激しい追究を受けて、いいざまだったけど、ともかくもこの日は非常に恥ずかしい思いをしてしまった。ただ、結果オーライ。だって、以来、男子でも女子でもない存在として扱われる事になったから。たとえば、着替えはトイレ、小便は個室、下着も毎日ブラトップ。何も気にしなくて良くなったのは有り難い。
 新しい経験って3ヶ月ぐらいはそれにのめり込むのが人情だ。しかもクラスでのカミングアウトのあとということもあり、毎日女性下着を着なければ申し訳ない気になってしまう。そんなボクを見て、母親はボクは女になる決心をしたと思ったらしい。下着ばかりかアウターも女の子の服ばかり買って来る。そうなりと、ボクも、そういう行為を無にしたくないという気持ちと、初めての経験という興奮とで、制服以外は完全女装の毎日が続くようになった。それがたまたま可愛い系の服だったのは、偶然なのか母親の勘違いなのか。

 だから、半年後に、魚の目と分かった時は目の先が真っ暗になった。だっていまさら女の子じゃないって言える筈がないから。一旦クラスの認識が女の子に変更してしまったら、それを男の子に戻すのは不可能だ。でも、そんな事情を母親に言える筈もない。ただただ、完全治療まではショーツが止められないだの、ショーツだけが女物だと却って変な目で見られるだの言い訳を続けて、ずるずると女装の毎日がつづけた。髪はもちろん伸ばっぱなし。
 生物学的に女になれなくとも、ボクは女の子を演じ続けなければならない。だから、骨格の違いとか気になって、骨を小さくする為にわざと小さなTシャツを着続けたり、食べ物を気をつけたりした。こうした努力のお陰で、いつしか胸囲75センチの、女子以上に華奢な体になった。
 今や女装の方が似合う。これが男の娘なんだよね。悪くはない。
 人生は面白い。魚の目の痛みに苦しんだ価値はあったみたい。

仮想男子 第2話 - 夢喰

2015/05/04 (Mon) 00:52:38

<2. ハーレムエンドの裏側>

  第1週
木曜日:連休中にゲームをクリアしたのはダチの中では俺だけだ。ふふふ、俺だけがハーレム王だ。ダチは皆、羨ましそうに俺を見ている。
金曜日:なんと女の子グループと一緒に週末遊びに行く話が決まった。行き先はちょっと離れた女子の家。家の前に大河と河川敷があって、ボートもバレーボールもありという、まあ健康的な集団交際だ。男は他にダチ4人。
土曜日:女子5人のうちの3人が、しきりと俺に話しかけて来る。これってプチハーレム? ダチ4人は残り2人に食らいついているけど、あの2人はそこまで俺の好みじゃないんだよな。
日曜日:連チャンで川岸をかえて遊ぶ。3人の女子と、あと、あぶれたダチ2人。でもこの3人は俺のものだぜ。競争心からダチ2人を見ると、何となく覇気が足りない。モテるるわけないよな。
  第2週
月曜日:週末以来、クラスメートをライバル視点でみると、何だか、俺のダチって他の連中より顔が良いけど、何となくひょろっとしているよな。いや、それって細マッチョ? 女の子にはこういうのがモテるって聞いたから、危機感を抱いて、魅力アピールを考える。ライバルと同じ路線は駄目ということで、密かに自主トレを始めた。運動部の連中には及ばないけど、ダチには勝てそうな気がしたから。
火曜日:女子の3人との会話が増える。クラス編成から1ヶ月、そんな時期だよな。そんな会話に他にも1人、これも平均ちょっと上の女の子達が会話に加わった。
水曜日:女4人は姦しい。ダチ2人はなぜかそれに食らいついている。警戒しなくっちゃとは思うけど、ここは男らしく無理しない。答えで滑っちゃ台無しだからな。
木曜日:今日も女子と楽しく話をしていたら、ダチ2人が無理やり俺を引っ張り出した。始めは俺を可哀相だと思ってくれたのだろうと感謝したけど、いやそれだけじゃない。女4人の会話に白旗を揚げて逃げ出そうとしたけど、俺だけ残すと女4人の誰も俺に向くと焦ったのだろうと見当をつける。まあ、仕方ない、つきやってやろうぜ。それが漢だ。
金曜日:もしかして、俺が女子4人を独占していることより、女子が俺を独占しているのをダチ2人は嫉妬しているのかな。そりゃ、分かるぜ。だから週末も遊びに誘ってやった。もちろん女子4人は俺について来る。4人とも俺的には高レベルだから、1人ずつならお前らにやるぜ。
土曜日:集合場所に遅れて行くと、6人のシルエットが見えるけど、あれ、女子のうちの2人はダチと同じ背の高さ? 女共はヒールでも履いているのかな。
日曜日:予定を入れずに散歩していると、昨日の組のうちの女子2人とダチ1人が一緒にいるところに出会った。ダチはゲームに誘い、女子はおしゃべりに誘ってきた。なんだ、この取り合いは? もちろんリアル女を選ぶ。
  第3週
月曜日:女子とダチとの間の俺の取り合いが激しくなって、なんと物理的に腕を両方から引っ張られた。あれ、ダチってこんなに手が小さくて力が弱かったっけ。改めてみると長袖に隠れている腕も細い気がする。
火曜日:体育の柔軟でダチ2人と組むが、何となく違和感がある。こんなに軽かったっけ? 俺の筋肉がついたのかな?
水曜日:昨日の違和感から、ダチ2人をやや遠くから改めて見る。椅子に座った状態を後ろから見ているだけだから、はっきりはしないが、他の男子より一段低い。あれ、それって足が長いってこと? 不味いじゃんか。
木曜日:中間試験。
金曜日:中間試験が終わって、早速遊びに行くと、もれなく6人がついて来る。数日来の疑問から背の高さに目が行く。へえ、ダチって、2人とも、ヒールを履いていない女子4人と似たり寄ったりの高さなんだ。っていうか、女子2人の方が高いじゃん。でも聞いてみれば、春の身体測定では俺と5センチも違わないぞ。
土曜日:お前達、女の前だからと云って、上品ぶって「僕」って言うなよ。まあ、顔立ちも、細さもお前達に負けている俺が女子4人を独占している状態に焦るのはわかるがな。
日曜日:女子4人はいずれも機会があれば他3人を出し抜こうとしてくる。うん、ハーレムだ。問題はダチ2人。女4人の誰かにアタックするわけでもなく、俺とばかり話をしたがる。そりゃ確かに女子がお前達に話しかけると、俺への会話を止められたみたいで嫌な顔をするけどよ、そんなに、いじけるなって。
  第4週
月曜日:ダチが最近プレーしているゲームって、乙女ゲーらしい。あんなの、どこが良いんだ。
火曜日:もう一人のダチも別の乙女ゲーをやっているらしい。聞けば、攻略対象のファッションを真似れば良いのではないかって? まあ、確かにお前らみたいに顔の良い連中にはそれが良いかもしれないけどな、それには背が足りんぞ。
水曜日:ダチ2人が女子と乙女ゲームの話題が盛り上がっているけど、おまえらゲームを楽しみ過ぎじゃないか? でも、その割にぎすぎすした雰囲気なんだよな。
木曜日:体育の柔軟でダチ2人と組むが、改めて違和感を感ずる。いや、軽いだけじゃなく、なんだか鶏肉みたいに柔かいんだ。えっと、これってむくみ? でも、こんな軽い奴が糖尿のはずはないし。
金曜日:不意に呼び止められて、声が女子かと思ったらダチだった。お前、そんな声、前から出してたっけ? と疑問に思ったら、今まで通りのダチの声で話を続けてきたけど、こうして聞いてみると。ダチの声って、喉仏を震わせている感じが全然しないんだな。確かにこんな声で「俺」って言われても違和感を感ずるだろう。って、あれ、ついこの間まで、こいつら「俺」って言ってたけど、どうして変に感じなかったんだろう?
土曜日:Tシャツ・ジーンズのダチを後ろからみて、一瞬、女子の誰かかと見間違えた。おまえ、髪の毛をそろそろ切らないと伸びてるぞ? でも、うなじかかる程度で見間違えるのも変だな。それに、髪の毛ってこんなに早く伸びるものだっけ?
日曜日:女子の初夏の格好は眩しい。弁当とクッキーを作って来てくれたのも素晴らしい。何? 昨日、その2人に負けたから対抗したって? 何に負けたんだよ。
  第5週
月曜日。女子は夏服だ。ブラジャーの紐が透けて、やっぱりいいねえ。と座っている姿を後ろから観賞する。あれ、ノーブラの女の子がいる、と思ったらダチだった。でも、変だな、あいつらこんなに細くて頭が小さくて低かったっけ? 俺はこんな女っぽい連中とダチだったっけ?
火曜日:体育の柔軟でダチ2人と組むが、背も肩も全然合わないことに気がつく。手足は細いし、肩は細いし、軽いし、尻がクッションみたいだし。なんだか、子供、それも女の子と柔軟をしているような気持になる。1ヶ月前はこんな感じじゃなかったぞ。
水曜日:「キャッ」っていう可愛い声がしたと思ったら、ダチが女子から尻を触られていた。おいおい、逆だろ。まあ、たしかに、あの尻のクッションは良かったな。明日の体育が楽しみだ。
木曜日:このところ、女子4人とダチ2人はよく会話をしているけど、なんだか、アタックと言うより張り合っている感じなんだよね。でも、アタックを諦めるのも分かる気はするな。だって、ダチの方が背は低くて、上半身はもっと細くて薄い。うなじだって女子より奇麗だし、髪も滑らかだ。って、何だかおかしい。
金曜日:下着にタンクトップなんて着るんじゃない。後ろからみたら女の子にしか見えないぞ。かろうじてブラジャーを着ていないことから男って分かるけど。
土曜日:こうも毎週一緒だとハーレムだよな。先週からは弁当も作ってくれるし。それはいいけど、問題はダチだ。なんでシャツのボタンの向きが違うんだ? まあ、体の細さに合わせたってのが分かるが、それはやりすぎだろう。それに下だって、ちょっと体のラインに合い過ぎて、一瞬レギンスかと思ってしまったぞ。しかし、こうして見ると、お前らの足って尻から膝にかけて、ほんと、ダイコンみたいにすっと細くなっているよな。女物が似合う訳だ、って、それ、おかしいだろ。
日曜日:そのTシャツだけど、それ、肩甲骨が完全に見える女物でじゃん。お前らみたいに顔立ちの良い奴が着ると女装にしか見えないぞ。それに2人とも、そのズボンはやっぱり女物だぞ。だって尻がふっくらして、なにより股間が、って、おまえら、どうして前がフラットに、ぴっちり肌にくっついているんだよ。隠れ女装なのか? そうなのか?
  第6週
月曜日:週末のショックの後だと、ダチの着ているタンクトップが、実は男物でなく女物であることが分かってしまった。っていうか、肩の部分の細さとか生地の薄さとかはキャミソールって言うべきかも。うん、仕方ないんだよね、お前らみたいに細い連中には女物しか合わないんだろうよ。
火曜日:今日の体育、お前ら、教室にいなかったけど、どこで着替えたんだ? まあ、女物のタンクトップを着ているんじゃ、恥ずかしくて皆の前では着替えられないだろうけどさ。
水曜日:このところ、女子4人が何だか結束している気がする。
木曜日:体育で気付いたが、その靴下はなんだ。そんな可愛らしいを履かれると、女の子と一緒に柔軟体操している気になるじゃないか。それにしても……色っぽいよな。
金曜日:ダチの顔をみて、あれ、睫毛がこんなに長かったのか、目がこんなに大きかったのか、口がこんなに小さかったのか? と不思議に思った。顔立ちだけなら女子よりも女子らしいんじゃないの? あと、ダチの髪の毛ってこんなに長かったっけ? 変だな、前からそうだったっけ?
土曜日:女子は普通の奇麗な格好で見飽きたけど、ダチ2人の格好は目を引きつける、ってなんだよそれ。暑いから短パンは分かるけど、それってキュロットにしか見えないぞ。遠目でスカートかと思ったほどだ。あと、もう1人のお前、後ろにチャックがあるジーンズって、明らかに女物だろうが。恥ずかしくないのか? いや、でも、下手に男物を着るよりそっちが合っているだよな。そのふっくらした女尻に目がいっちゃんだよな。男としては。
日曜日:遠目で一番可愛いと思ったのが何とダチだった。おかしいだろ。おいおい、お前ら、なんで女子と一緒に平気で女性下着コーナーにいけるんだ? それをどうして誰も気にとめないんだ。っていうか、それが当たり前って気がする俺も俺だけど。
  第7週
月曜日:ちょっとまで、お前ら、夏服の下に透けているのは明らかに紐。スポーツブラとキャミソールの組み合わせらしい。それなのにクラスメートは騒がない。変だ。なにか変だ。2人とも「わたし」って言っているし。もしかして2人とも性同一性障害?
火曜日:あ、おれは気がついた。これってギャルゲーの世界だった。漢を鍛えると1日3ミリ背が伸びて、顔も精悍になり、更にヒロインへの好感度が上がると、ライバルの男の娘が現われて、それに対抗意識をもった女子が女子力を上げて行くんだった。そして、さらにハーレムルートに入ると、男の娘の体型が、女の子よりも魅力的になって、ハーレムの一員になるという。ヒエー、ハーレム王クリアーした俺は、ゲームの世界に入ってしまったらしい。

----------- 裏面 ------------
  第1週
木曜日:あーあ。とうとう1人しか攻略できなかった。それも男の娘。こりゃ嫌がらせだ、くそゲーだ。でも、ダチ達と話してたら、なんと1人だけクリアしやがった奴がいる。しかもハーレムエンドまで達成だと! 羨ましい。
金曜日:奴ったら、なんと女子グループと一緒に週末遊びに行く話までまとめやがった。さすが、くそゲーをクリアする奴だ。それともゲームで培った技なのか? それにしても、ボートもバレーボールもありという健康的な集団交際で始めるとは、なるほどな。確かに「お友達から」だ。焦ってはいけない。だから男も全部で5人。
土曜日:一番人気の女子の回りに皆で集まって、ワイワイしていたら、いつの間にか奴がいなくなっている。ライバルが減ったと思ったら、暫くして3番人気の女子が捜しに出た。このまま2人で消えてくれたら最強の敵がいなくなると思っていたのに、気付いた時は女2人を男4人で取り合っている構図だ。しかも、俺にはどうにも脈がない。失敗したなあ。ああ、だからゲームもクリアできないのか。
日曜日:連チャンで川岸をかえて遊ぶ。昨日の失敗に懲りて、まだ可能性のある3人の女子と遊ぶが、出遅れたのが悪かったのか、女子の俺を見る目はあまり友好的ではない。ちょっと萎えて、いつもより少し大人しく過ごす。まだまだこれからだ。
  第2週
月曜日:俺はあいつより顔もスタイルも良いという自信があったのだが、女子3人の視線の先にあいつがいる現実に、自信がちょっと揺らいでいる。見習ったほうが良いのかもしれない。でもどこで負けているんだ? 体格の男らしさの差なのかな。でも、先々週の体育ではそんなに体格の差は感じなかった。もしかすると筋肉とかで負けてるのかな。
火曜日:週末以来、女子3人があいつに良く話しかける。しかも今日は更にひとり、平均以上の女子が加わった。俺とあいつは友達だから自然に加われる。おこぼれでも良い。女子と一緒に空間にいる今が楽しい。
水曜日:女4人の会話。4人ともあいつを狙っているのか、あいつの前では友達である俺にも友好的に話しかけて来る。そうだろうそうだろう。そして俺もきちんと会話に合わせ続けたら、チャンスはあるだろう。なんたって4人もいるのだ。その為には、女の子の興味のある話を勉強しなくっちゃ。だからちょっと恥ずかしかったけど、彼女達が話題にしている雑誌を買った。なに、メモを見ながら妹に頼まれたっていう風にして直接店員に頼むと「感心感心」という目で見られるんだよね。
木曜日:頑張った成果が出ない。女子に話を合わせようとすればするほど、女子はあいつに話を振る。作戦変更。俺があいつと仲良いところを見せつける必要がある。だから、もう一人の男子と一緒に、あいつを女子から引っ張り出すことにした。あいつは女子に未練を残さずにすっと出てくれた。良い奴だ。
金曜日:女子4人がますますあいつにアピールしている。女子の間でも競争が始まっているのかな。でも、それは困る。ここはもう一人の男子と同盟であいつを週末に誘う。おそらく女子も着てくるだろう。ところがあいつは女子にも誘われていて、既にOKしていた。落胆していたら、あいつは俺たちを誘ってくれた。やっぱり良い奴だ。
土曜日:集合場所には俺達が一番乗りだ。ここに着たのは1年半ぶりかな。あの頃と何も変わってないことに安心する。これならミスはするまい。目線もあの時と同じだし、って、あれ?
日曜日:予定を入れずにぶらついていると、昨日の女子のうちの2人と出会った。昨日、あいつと仲良くしているアピールがよかったのか、そのまま歩きながら雑談をする。女子の読む雑誌を勉強した甲斐があって話題も弾む「へえ、ファッションとか詳しいんだ、そういえば、確かに痩せてて、色んな服が似合いそう」と言われてちょっと舞い上がった。そうこうするうちにあいつに出会う。不味いと直感的に思ってゲームに誘うが女子に取られた。うわあ、僕って女子に魅力で負けるのか。あれ、俺、いま、独り言で僕って云わなかった?
  第3週
月曜日:このままだと、あいつのハーレムが確定してしまって、こっちにチャンスが薄くなる。そう焦って、先週の「彼、引き抜き作戦」を再発動させるが、その前に気付いた女子に阻まれた。彼の左右の腕を引っ張り合う形になったが、女は手加減せずに引っ張るから負けてしまう。それにしても彼の腕って僕より太いんだな。改めて自分の腕を見ると、骨は細いし筋肉も浮き上がってない。女子より細いかも。っていうか、女子が太過ぎだろ。そのかわり、滑らかさでは勝っているけど。ってなんで、僕は変な所で対抗意識をもっているんだ?
火曜日:体育の柔軟で彼と組むが、何となく違和感がある。こんなに重かったっけ。こんなに硬かったっけ。
水曜日:前に座る男子が視界を奪って黒板が見え難い。なんで今まで気付かなかったのだろう。あ、でも、これって僕の座高が低いってことだよね。
木曜日:中間試験。
金曜日:中間試験が終わって、早速遊びに行く。彼と取り巻き女子4人と僕たち2人。それにしても彼の背は高い。ちょっと見上げる感じだ。あれ、女子も2人、ちょっと高いけど、皆、まだ成長期なの? でも、直ぐに僕は追い抜くからね。夜は、女子一般と仲良くする為に、試験前に買った乙女ゲームを試す。
土曜日:女子の話題の方が、俺の話題より彼の興味を引くみたいで、何だか負けている気分だ。ちょっと嫉妬する。そこで、夜は「彼、引き抜き作戦」の勉強として乙女ゲームを試す。意外に面白い。
日曜日:皆で集まると、女子4人はいずれも機会があれば他3人を出し抜こうとしてくる。うん、ハーレムだ。なんだかボクたちなんか目じゃないって感じ。ふん、ここは彼をこっちで確保しないと彼が可哀相だ。
  第4週
月曜日:昨晩も乙女ゲームをやって、2人目をクリアした。前にやったギャルゲーと違ってクリアできるからいいな。女子力を鍛えると好感度が上がるってのは良いよな。おかげでお洒落とか、ナチュラルメイクとか覚えたし。って、自分でする訳じゃないものを、なんで僕は練習しているんだ?
火曜日:ふふふ、もう一人の男子も乙女ゲーで2人クリアしたのか。これで化粧の話とかお洒落の話とかできる仲間ができた。って、違う違う、僕はそんな趣味じゃない。
水曜日:ゲームの話を女子の前で威張ってみせると、なんだか嫉妬された。うん、引かれているんじゃない。嫉妬だ。もう女子力では負けないからね。あれ、ボクってなんで女子力で闘っているの? 男として恥ずかしい!
木曜日:体育の柔軟で彼と組むが、改めて違和感を感ずる。重くて、支えるのがやっとな上に、硬くて筋肉感はあるんだ。「おまえむくんでないか」と言われて改めて自分の筋肉を触ると、彼とちがってぷにぷにしている。子供の頃を思い出すなあ。って、変じゃないの?
金曜日:重い声を出すのが辛くなって、試しに胸式呼吸をすると何だかとっても楽。なんで今まで無理やり重い声を出そうとしていたのだろう? あれ、無理やり? そんな記憶はないけど。
土曜日:彼の視線を背中に感じる。友達を奪われるなんて嫌だから、ちょっと快感。でも、直ぐに会話で彼をがさつな大女に取られる。こんな女、ちょっと、ちょっと彼女にはできないよな。なんでボクはこんな女子を彼女にしようなどと思ったんだろうか? 
日曜日:女子の初夏の格好は眩しい。しかも昼食とクッキーを作って来て、女子力アピール前回だ。ボクたちにもおこぼれがあったけど、え、なに、昨日、ボクに負けたから作って来たって? 駄目だよ、その程度の女子力で私には勝てないから。あ、ボク、いま、無意識に変なこと考えなかった? そんなことであいつは僕からは奪えないよ、ってなんで乙女ゲームの悪役みたいなことを考えているんだ、ボクは。
  第5週
月曜日:女子は夏服だ。ブラジャーの紐が透けて、やっぱりいいねえ。でも、ボクの仲間の男のコのほうがほっそりして小顔だよ。負けてるよ。きっとボクだって勝っているから。あれれ、それでいいのか?
火曜日:体育の柔軟で彼と組む。彼の体格ってお父さんを思い出す。男子ってこんなにどっしりしているのか。ってボクは男子の筈だよね?
水曜日:尻を触られて、思わず「キャッ」って声を上げてしまった。これじゃまるで女の子じゃないの。「何するの?」って抗議したら「ふうん、こんなライバルがいたとはうっかりしてたわ」って声が隣から聞こえて来た。ちょっとまってよ、それってボクが色っぽいってこと? 思わず優越感を感じちゃったけど、あとで思い出して男として恥ずかしくなった。
木曜日:女子4人の言葉にはなんとなく刺がある。そりゃ、確かにボクの方が君たちより背は低いし、肩幅も胸もウエストも薄いし、色は白いし、性格も大人しい。でも、ボクは仲良くなりたいだけのに。彼女にしようなんて一時でも思っていたボクは確かに間違っていたけど、そんなにつらく当たらなくていいじゃないの。だから、帰りに気分転換で服を買った。あれ、ボクって服の買い物を楽しむ男だったっけ? ワゴンでTシャツとタンプトップを見つけたらレジ前でそれだけ安売りでなかったので、慌てて安売りワゴンを見つけて同じ柄のを値札だけ見て買う。同じワゴンにシャツもあったので、なんとなく夏を感じさせる柄だったから買った。お金はあとからお母さんに請求。だって使う服だし、服がどれも洗濯伸びをしてしまったのか、どれもぶかぶかで新しく買わなきゃならないものだったから。
金曜日:昨日買ったTシャツは、よくよく見ると首の広い女物だった。だからか、お母さんが怪訝そうな顔で「こういうのが着たかったの?」と言って来たのは。けど、まあ、いい。だってピッタリだし着心地良いし、鏡でみても違和感ないし。ただ、恥ずかしいから外出では着れないよな。だからタンプトップを着て行く。やっぱり買いたての下着って着てみたいじゃないの。んん、もしかして、これって女子力? うわ、恥ずかしい。 
土曜日:新しいズボンが入っている。最近、ジーンズの裾の太さや長さが気になっていたのでお母さんに言ってたら、買って来てくれたみたい。そんなのボクが一緒でなくて大丈夫なのかな、と思いつつ値札をみると8割引き。お母さん、相変わらずだ。でも、履いてみると悪くない。前のスボンとは対照的に、膝がちょっときつくて尻がちょっと緩いけど、体型にはピッタリだ。ただ、股間がきついのが難点かな。裾を引かないように思い切ってズボンを上まであげたら、玉が根元に食い込んでしまった。異物感があるけど、ファスナーを引き上げると、股間が消えている。ちょっと面白いかも。って、いやいや、これは駄目だろ。上の方は早速、買ったばかりのシャツ。あれ、これってボタンの位置が違っているよね。でもシャツはシャツだし、サイズは合っているし。考えるのが面倒になったので、そのまま出掛けた。
日曜日:タンクトップは洗濯なのでTシャツを着る。どうせアウターは女物だし、このくらい構わないよね。って、今、女物と認識した途端にものすごく恥ずかしくなった。ボクって、実はとっても恥ずかしいことをしてきたの? 思えば先週から変だった? でもだ、ここで服をもう一回着替えたら、女物と気付いて女装していたことを認めることになる。ここは気付かなかったふりを続けるべきだ。男の威厳の為にも。
  第6週
月曜日:後ろからの視線を感じるけど、変だな、金曜と同じ格好なのに。でもそれは夜になって分かったんだ。今日着ていたタンクトップが実は女物だったって。タグを丁寧に見ていたら、見えない所に「レディースS」って書いてあったんだ。
火曜日:Tシャツもタンクトップも女物だと気付くと、クラスメートの男子に見られるのが恥ずかしくなる。だから、もう一人の男子を誘ってトイレで着替えた。
水曜日:女子4人は何だか近寄りがたい雰囲気だ。それは困る。女子から疎外されると私のいる場所がなくなってしまう。って、なんで私、女子の友達関係でなやまなきゃならないの? 私は男なのに。
木曜日:なにげなく新しい靴下を履いて学校に行く。あれ、私ってこんな靴下をどうして履いているんだ? それにしても髪の毛の伸びが早い。私服に着替えて床屋に向かったら、なんだか女装っぽい格好をしていることに気付いて、それが恥ずかしくなって、この格好で行ける場所としてサロンで切ったら、なんだか、髪をほとんど切らずに整えてくれた。髪がふわふわして心地いい。あ、でもこの髪型って、女の子に見えてしまう? まあ、いいか、私はクラスの女子よりも小さくて細いし、女子力あるし。って、ちがう、ボクは男だ。こんな恥ずかしい格好をしてどうやって、穴に入りたい。
金曜日:最近、食事で一口に沢山食べられなくなった。黒板を見る時に睫毛が邪魔だ。睫毛のせいか、今日は「おまえ、鏡みてみろよ」と言われた。トイレで確認するけど、別に変じゃない。ちゃんと乙女ゲームのアドバイスに従って、きちんと洗顔しているから。少しは乙女ゲームに出て来る美男子に近づけたかな。これを始めたとき、お母さんが「あなたにそんな趣味があったの」と言われたな。「うん、実はいままで隠していたんだけどこれが本当のボクだよ」って応えたけど。
土曜日:箪笥の衣替えが続いている。新しく入ったのはジーンズ。とりあえず試しに履くが、あれ、これって前後ろどうなっているの? チャックを前にしても履けないし、ポケットの位置とかおかしいから、チャックを後ろにして履くと、うわあ、履きやすい。そっか、尻の大きなな人用に後ろチャックなのか。って、女物じゃん。でも、ボクの意思と逆らうように、チェックを上げてしまった。妙な強制力が働いている違和感がある。しかし、お陰で、股間は完全にフラットだ。チャックすらないから、間違って異物が戻ったり膨れたりすることもない。なるほど、パンツ系で女装するなら、たしかに股間は重要だよな、って違う違う。私に女装趣味はない。私は男だ。男の子だ。男のコだ。
日曜日:ふらふらと、朝、昨日箪笥で目に入っていた女物のブラウスとキュロットを着てしまう。嫌なのに、恥ずかしいのに。昨日だって「おかあさんったら私が女の格好をしたがっている誤解しているのかしら」と憤慨しながらも、着てしまった。強制力みたいなのを感じる。いや、でも理性的には、こっちの格好が似合っていると思っているのも自身もおかしい。だからかも知れないど、鏡をみて「見て、お母さん、私って可愛い?」って口走ってしまった。いけない、これじゃ、家族から完全に性同一性障害って思われてしまうじゃないの。でも、自分の言動は、自分の思っていることや恥ずかしさと裏腹に、女の子を演じている。だから女子4人に、友達として見捨てられないようにまとわりつく。4人組は逃げるように女性下着コーナーに入ったけど、今の私は女の子にみられるはずだからと、恥ずかしいにもかかわらず、やっぱり強制力みたいな成り行きで入ってしまった。だれも咎めなかったけど、女子4人にブラジャーを意地悪気味に薦められて手に取ったとき、あ、これでもう私は性同一性障害として認知されてしまった。男物は制服しか着れないんだ、と分かってしまった。
  第7週
月曜日:今日は初ブラジャー。恥ずかしいけど、私が性犯罪者扱いされない為には、ずっと性同一性障害を演じ続けなければならない。
火曜日:私は今気がついたの。これはギャルゲーの世界の男の娘そのものだって。男の子キャラに嫉妬させることに成功するごとに、その男の子の体型が次第に男の娘体型になっていくってことを。一日3ミリずつ背や胸囲やウエストが縮むだけで、5週間で10センチも女性体型に近づくのだから、今の私はクラスで一番スタイルが良い子だ。つまり私が常時女装になったのは、ゲームの強制力のせい。だから女なんかになりたくないのに、女装なんていやなのに私の女装はエスカレートする。確か来週には、アウターから透ける下着が男物と分かるのが怖いという理由で下着も100%女物になって、2週間後には女子水着デビューして、やがて女子制服になるはず。ログアウトは出来ないのか? デスゲームよりも怖い。

天使の声に惑わされて:2 - 夢喰

2015/04/26 (Sun) 21:37:40

 誕生日の終わった夜、布団のなかで色々考える。あれだけの反響を冷静に考えれば、ぼくにそれなりの歌手衣装を着せたくなるのだろうと理解できた。男子アイドルだって女の子が着てもおかしくないキラキラした服をきている人がいるんだ。そして、女心の恋歌を女の子の格好で歌うのは「演技」であって女装じゃない。しかも、そんな格好で歌ったら、お父さんや担任の先生は言っていたように、感情のこめ方が違ってくるのかもしれない。だから、無理やり着させられることがあっても、そこまで抵抗しなくてよいかも、とも思う。
 でも、そういうことに興味があると皆に誤解されるのはいやだ。ぼくは男の子で女の子ではないのだから。不幸な事に、体育が苦手で、体も細めだ。そんなぼくが演技とはいえ女装したら、クラスの男子から「そういう趣味」と変態扱いされて、避けられたりいじめられたりしないだろうか? それが怖い。となれば、女装から逃げ回るのが無難だろうな。

 そんな風に心配していたけど、いつまでも親からは女装を言われる事はなかった。そういうものかもしれないな。結局、誕生日の女装云々は、ぼくの歌が女の子の共感を呼んだからだろうと思う。なんだか嬉しい。
 でも、こうなると、女装歌唱でどう変わるのか試すチャンスを失ってしまった気がして、ちょっと残念な気がした。次の機会があったら、もうちょっと「プロ演技」への興味を見せてもよいかも知れないかも。
 もっとも、女装の代わりに新しく始まったトレーニングがある。胸の回り、正確にはあばら骨の回りに、スポ根漫画で出て来るようなギブスみたいなのを付けて歌う訓練だ。正確にはギプスではなく、2年前に使っていた上着のシャツを板で補強して、ボタンの代わりにマジックテープを付けてその上からベルトでとめただけだけど。作ってくれたお父さんは、なんでも訓練用コルセットとか言うんだって。息も出来ないほどに窮屈で、板で押しつぶされるような圧迫感があるけど、こういう状況で声を出す事で、
「呼吸を無理に胸式にした状態での腹式呼吸の練習」
をするんだって。
 お母さんは
「へえ、面白いこと考えたわね」
と相槌を打っているので、お父さんのアイデアらしい。となれはスタジオの小父さんも知らないだろうな、と思ったら、案の定
「ようわからん、まあ無理するな」
とのことで別に反対もしていなかったから、きっと歌の訓練には良いのだろうと思う。

 実際、訓練用コルセットをして歌うのはとっても辛いけど、それを外した瞬間はとっても声が響くし、はめたままだと何だか高い声が出るような気がする。本当はそんな事はなかったらしくて、コルセットと関係無しに練習が増えたお陰で上手くなったらしいのだけど、特別なことをした時って、そのお陰で成果が上がったと錯覚するのが普通らしいんだ(大人になってから知ったことだけどね)。それで、ぼくはコルセットを役立つと思い込んでしまって、お父さんの言うままに少しずつコルセットを締める時間を長くしていった。小父さんやお母さんもぼくの歌の上達に、コルセットの効果があるのだろうと思い込んでいたから、ぼくだけの誤解じゃない。
 誤解でも何でも、ぼくの高音はますます澄んで、同時にコルセットで肋骨を締める時間が長くなった。そして、その理由として
「きっと肋骨が大きくなるのを防いだから良かったんだろうな」
とお父さんが説明してくれたのはとっても説得力があって、ぼくは次第に
「肋骨が小さいから大人でなく子供が天使の声を出せるんだろうな」
って確信するようになった。そういえば子供でも女の子や小さな子の方がより音が高いけど、やっぱり男の子より少し小さいからかも。でも女の子より男の子の方が響くからね。それでボーイソプラノが一番なんだ。

 家の方はこんな感じで、ぼくも満足していたんだけど、学校の方は話は別で、誕生日に来てた子から、翌日に「しょーたん」と呼ばれたにはびっくりした。いままで名字で呼んでいたのに、急に呼び名がかわったものだからきょとんとしていたら
「あ、ごめん」
と謝られて、あらためて名字で呼ばれた。でも、女の子同士ではぼくのことを「しょーたん」とか「しょったん」とか呼んでいるみたいで、なんだか居心地が悪い。
 そんなことがあって、1週間ぐらいしたとき、誕生日に来なかった女の子から
「先週、セーラー服で歌ったって本当?」
と尋ねられたのには面食らった。近くには誕生日に来た子もいるから、確認なのだろうと思うけど、その手の質問が出るなんて思ってなかったし、すでにほとぼりの醒めたあとだったのもあって、不意うちに近かったぼくは、まるで女装疑惑を持っているみたいで、おもわず恥ずかしくなって、そどろもどろに
「あ、いや、えっと、その、あれは合唱団の服で、ほら、外国の、そうそう、ウイーンってところので、それを誕生日の発表会でお母さんに着させられて」
と説明したけど、きっと顔が真っ赤だったよな。
 誕生日に来た子に助け舟を出して貰う様に目配せしたけど、それがまた逆効果みたいだったようで
「うん、まるで女の子だったわよ」
と言われて凹んでしまった。そのまま
「ふーん、だから『しょったん』なのね」
と納得されてしまって、彼女は次の話題に移り、とうとう弁解の機会すら与えられず。しかも、あとで思い直したら、「少年」合唱団と説明せず、単に合唱団って言っただけだから、女の子用の制服と思われたかもしれない。あーあ。
 幸い、人の噂は75日、9歳児の噂はその一週間というわけで、この日以外に恥ずかしい思いをすることはなく、いつしか、女装させられるとか、女装を思わせる噂が立つ心配はなくなったけど。

 こんな具合で、女装の方は問題なかったのだけど、(男の子用の)セーラー服とは縁が切れなかった。というのも、お父さんが
「正式の服を練習で着るのは訓練によいぞ」
「着慣れておかないと、本番で上がって失敗するぞ、誕生会のようにいつも客が優しいとは限らんからな」
と歌の練習で着るように言うからだ。お母さんも反対していないところを見ると、きっと正しいのだろうけど、そう言われて着る度に
「これって同級生からみたら女装なのかもな」
と後ろめたく思い、
「できれば同級生に見られたくないな」
と恥ずかしく思ってしまう。だから、親に言われない限りセーラー服は着ないし、そもそもスタジオでしか着ない。
 でも、その分、セーラー服で練習した日は、気合いが入って普段より上手く歌えるんだ。上手く歌えていることは小父さんやお母さんも認めていて、それで、小父さんやお母さんもぼくが練習の際にセーラー服に着替えることに積極的に賛成するようになった。このままでは毎回セーター服だと不安に思ったぼくは、なんとか週に2回だけセーラー服を使うことだけで許して貰えるようになったけど、ともかくもセーラー服を着ることは約束させられてしまった。
 お父さんに言わせると、
「本人が気恥ずかしいぐらいに衣装に凝ると、最高に歌わなければならないという気合いが入って、それで上手く歌える」
のだそうだ。そんな本音をいま言ってしまったら、逆効果でないかと思うけど、お父さんは
「人間って、分かっていても恥ずかしさには自然に反応してしまうんだよ」
「だから恥ずかしさは大事だよ」
とひどいことを言っている。練習は週4−5回、月、火、木、(金)、(土)。うち2回以上がセーラー服。仕方ないんだろうな。

 2学期も残すところ12月だけ。誕生日での成功が元で、誕生日の時にバックアップしてくれた小父さん達のバンドのクリスマス会で、ゲスト歌手として歌わせてもらえることになった。クリスマスソングにボーイソプラノ向けが多いのが理由の一つだそうだ。ただ、ぼくは主役じゃないので、小父さんたちと2重唱や3重唱をやったり掛け合いをやったりするのが多くて、特にラブソングではぼくが女役で小父さん達に合わせるという形だ。ちょっと気恥ずかしいけど、それ自体は普段の延長みたいなもので、まあ構わない。問題は、それを誕生会と同じセーラー服で、人の面前で歌うのってこと。いかにズボンだとはいえ、誕生会に「女装みたいだよなあ」と感じてしまった記憶があったので、ちょっと恥ずかしい。
 でも、こんな機会を設けてくれた小父さんに僕は全力で応えなければならない。ぼくには男女の恋とか未だにほとんど分からないし、ましてや女心なんて無理。だから、それらしい抑揚とか声の出し方とかも分からない。でも、そこは小父さんとお母さんの指導というか、練習の通りに歌えばどうにかなるらしく、なんとか本番までにそれらしく歌えるようになった。そして当日。
 小父さんと僕のデュエットに、観客は
「禁断の愛」
とか
「犯罪」
とか言いいつつ、喜んでくれた。これってきっと褒め言葉だよね? 観客の表情からそう判断したけど、その意味は分からない。まあ、成功すればよいか。
 観客には音楽の先生も来ていて、なんでも小父さんから連絡があったらしい。さすがに大人っぽいライブだったから、同級生はいなかったけどね。
 でも、このライブ、さいごに罠があったんだ。それは掛け合い型のラブソングの前に、お母さんに従業員室に連れられて
「最後の曲はクリスマスのサプライズってことで、この衣装に着替えなさい」
とむりやりセーラー服を脱がされて、いきなりワンピースをかぶせられたんだ。
「ちょ、ちょっとまってよ、こんなの恥ずかしいよ」
と言ったものの、ラブソングのパートがずっと女役だったし、最後の曲も10代の女の子の恋がテーマだったから、ワンピースもわからないでもなく、しかも横にいるお父さんに
「誕生日で皆にお世話になっただろ、ならこのくらいのサービスはプロを歌手を目指すなら当たり前だ」
と言われてしまっては、この場で抵抗するのも悪くて、そのままステージに上がってしまった。まあ、下の半ズボンは脱いでおらず、髪だって、ちょっと長めの坊ちゃん刈りに花を一差しただけで、本当に目先だけの女装だし、クラスメートもいなし。音楽の先生はきっと分かってくれるだろうから、まあいいか。
 ともかく、ぼくに出来る事は、衣装まで本格的に揃えた見た目に合うだけの感情のこもった歌を披露する事。さいわい、『特別な服を来ている』という高揚感と注目感で、確かに今までとは違う感情が籠っていたと思う。その為か、ライブが終わった時、ぼくは色々な人から、歌を褒められて、とりわけ最後のワンピースについては
「声とも歌の内容ともマッチしてたね」
「あういう事ができるならプロになれるよ」
と口々に絶賛された。
 観客から口々に褒められる横では、お父さんがお母さんに
「ほら言った通りだろ、服を変えるだけで大きく伸びるぞ」
と言っていたのが聞こえてきたから、さっきの女装は正解だったみたいだ。なんでも、この日の準備をお父さんがお母さんに呼びかかけたとき、お母さんは
「それはいたずらとして面白いかもしれないけどねえ」
とあまり乗り気ではなかったらしい。でも、今はお母さんも女装が正解だったと認めているみたい。
 もっとも
「似合っていたわ」
という褒め方をする人がいたのには複雑な気分になったし、
「そのワンピース、わざわざ買ったの? 買うぐらいなら貸してあげたのに」
と多くの聴衆が尋ねる度に、中古で500円でお父さんが勝手に買って来たと説明しなくちゃならなかったのには少し辟易したけど。そう貸りるのも面倒とのことで古着屋だったかバサーだったかでお父さんが買ってきたんだそうだ。ぼくにしてみれば、余計なことをしてくれた、という感情的な気持と、よくぞ買って来てくれたという冷静な感謝の両方の交ざった気分で、なんとも言い難い。
 そんな複雑な気分を知ってか知らずか、
「ああ、たしかに、ちょっと傷んでいるところがあるね。こんど機会があったら、もっと良いのを貸すから、言ってね」
と言って来るおばさんたちもいて、僕の「女装=変態レッテル」という不安は遠のいていった。
 女装=演奏という風に結びつけられる限り、ぼくが女装しても誰も変な目で見たり悪い噂を立てたりしないんだろう。女装演奏は悪くないのかもしれない。もちろん恥ずかしいけど、思ったほどは酷くないし、恥はいっとき、経験は人生の宝だ。って、これもお父さんの言葉か。
 そう思ってしまったぼくは、この日、クラスメートが誰もいないという事実をすっかり忘れていた。

 ライブは12月前半にあったので、年末までは元通り練習を再開する。再開前にはお父さんから
「どうだ、世界一はともかく日本一を目指す気になったか?」
と言われた。
「あれ、そのつもりだったんじゃなかったの?」
と思わず疑問を口にしたら
「今までのはまだまだ遊びだ、だって練習で気合いを入れたのは週2回だけだろ?」
と指摘された。たしかに週4、5回の練習のうち、セーラー服の制服で練習したのは2回だけ。そして、その2回だけは自分でも気合いの入り方が違っているのが分かる。
 しかも、相手は子供の頃から知っている小父さん。同級生の女の子でピアノとか習っている人は、ちゃんとした先生について月謝も払っているとか言っている。考えてみると遊びだ。
「ボーイソプラノはちゃんとした先生は捜すのが難しいから、こっちは仕方ないけど、練習ぐらいは毎回本番ぐらいのつもりで行け」
と言われては、セーラー服を着ざるを得ない。2ヶ月前なら、ちょっと嫌だったけど、男物だし、練習の時だけだし、今じゃぼくも抵抗はあまりない。
 あからさまにセーラー服って言っている訳ではないけど、この話の流れはそうだ。お母さんだって
「それもいいかもしれないわね。でもあなた、練習で毎回使うとなると、本番の頃にはくたびれてくるわよ、あれ薄地だから」
とセーラー服前提で話をしている。
 そんなこんなで、セーラー服は練習へ毎回持っていくことなった。着て行くんじゃなくて持って行くのは、さすがに、セーラー服で外を出歩くのは、事情を知らない人には女装に見えるので、今でもいやなんだ。

 セーラー服が当たり前になって暫くすると問題が2つ出たんだ。一つは洗濯。女子中学生が使っている紺色のセーラー服と違って、この「ニセ、合唱団制服」はちょっと薄地で、汚れの目立つ色で、簡単に汗臭くなる。きっとコスプレ用なのだろう。だから毎週洗濯をしなくちゃいけないんだけど、時々洗濯は間に合わなくなるんだ。特にズボンは上と違って家を出る時から履いているし、段々面倒になって、そこまで寒くない日はこの半ズボンで学校に行って、汚して来ることもある。男の子は半ズボンは週に2着は必要なんだ。でも、ぼくの持っている他のズボンは全然セーラー服に色も柄も合わない。
 とうとう新しいのを買うことになったんだけど、お母さんが一着買ってみたら、これも微妙に色が合わないうえにちょっと小さめで、お母さんは
「この色の男の子のズボンて、意外と種類がすくないのよねえ」
と嘆いていた。見かねたお父さんが
「まったく同じズボンがないのなら、むしろセーラー服を持って行って、それに合う奴をズボンと見比べながら買えばよいだろうに」
と助け舟を出して、結局、返品ついでにセーラー服も持っていて、それに似合うのをお母さんが見繕うことにになった。
 で、それで買って来たのが、こんどは裾がちょっとダブダブのズボンだった。
「色と柄があって、男の子がはいてもおかしくないのって、これしかなかったわよー」
と言ってるから、もしかしたら女の子用のズボンかも知れないって思ったけど、ここは気付かないを通した方がよい気がしたので、
「あー、うん」
と生返事して済ませた。だって、知らなかったら運悪く同級生とかに見つかった時に
「男物のズボンを履いたつもりだった」
って言い訳できるかも知れないって思ったから。実際はそんなことはないのだけど、ぼくがそう思えれば落ち着くんだ。だから、夜、お父さんがお母さんに
「子供用のズボンなら男用も女用も関係ないだろ」
とか言っているのが聞こえたけど、聞こえなかったことにした。
 でも、そのズボンで練習に出掛けた時はとっても恥ずかしかった、というか他人の視線が怖かったから。幸い、スタジオまでは上は男物のジャンパーを着ているので、だれも問題にしていないみたい。まあ、ダブダブといっても襞があるわけじゃないので、キュロットとズボンの中間って感じだものな。
 セーラー服を毎回の練習で着るようになって出た2つめの問題は、慣れで緊張感が減ったことだ。当たり前なんだよね。小父さんは
「肩の力が抜けて良い」
と言うけど、ぼくはもっと上を目指したい。お父さんは練習を一度も見たことが無いのに
「もしかしたら、マンネリで緊張感を持てなくなったとかないか」
と図星をついてくれる。もしかすると、ライブの時のワンピースでも着ないと、ライブの時のような気合い入らないのかも知れない。

 そうしてワンピースのことがちらちらと頭にかかり始めた1月の上旬、ぼくにアルバイトの話がもちあがった。なんと民放AMラジオにコマーシャルを出している地元の大型ショッピングセンターから、コマーシャルソングを歌うように小父さん経由で依頼されたんだ。小父さんには昔から音楽関係の伝手があるらしい。それは分かる。そして、クリスマスライブには他の音楽関係者も来ていたらしい。それも分かる。でも、こんなにとんとん拍子に認められるとは思っていなかった。これを断る馬鹿はいないよね。
 依頼の内容は、ティーン少女の恋歌。誰の曲だったか知らないけど、有名な歌らしい。そして、バレンタインで少女達の心を代弁するのに、僕の声質が一番良いらしい。もちろん地元レベルの話だけど、それで十分だ。もっとも、僕だったら安上がりってのもあったのかもしれない。だって、報酬は5000円。お金自体は親が取り上げるんだけど、ぼくにとっては、お金よりも自分の声がラジオから流れってのが誇らしい。
 地元のショッピングセンターが民放AMラジオ枠に費やせるお金は少ない。そもそも、利益の為の宣伝と言うより、コミュニティーのラジオを維持する為の寄付みたいな性格のあるAMラジオ広告枠らしい。だから広告には、僕のような「地元の期待の星」を発掘するという意味もあるらしく、コマーシャルが好評なら、最終的にはラジオの30分ゲストの可能性も出るそうだ。
 こうして、ティーン少女の恋歌の練習に没頭することになったけど、問題もあった。それは緊張感だ。ラジオとなると一曲だけ。もちろんスタジオ録音。ライブのラストみたいに勢いがつく訳ではない。これで最高の歌が出来るとは思えないのだ。しかも、今ではセーラー服を来てすら緊張感不足を感じるようになっている。それこそ、ライブの時のように、ワンピースでも着ないと女の子の感情を出せる歌は無理かもしれない。女装は嫌だけど、恥ずかしさによる気合いは必要悪だ。それが正しいかどうかはともかく、試す価値はある。でも僕からワンピースを着たいなんて言えるはずがない。
 そんな複雑な心境のぼくに後押ししてくれたのはお父さんだった。
「いかにスタジオ録音とはいえ、ワンピースを着て歌うのを考えるのがプロ意識というものだぞ」
このアドバイスは「言われた」じゃなくて「言ってくれた」という気がした。これなら、仕方ない形での、しかも歌衣装としての女装になる。有り難い。そんな心持ちでお母さんのほうをじっと見ると、
「お父さんの言うとおりよ。これも舞台練習ね」
と賛成してくれた。
 こうして、歌が完璧になって録音が済むまでの1週間、僕はワンピースで練習した。録音の前日と当日にはズボンも脱いだ。ああ、これが女の子の着感というものなのか。そう思いながら歌った恋歌は確かに最高のものとなった。
 その後はさすがにセーラー服に戻ったけど、それでも女の子の感覚というか、そういう気持を維持する為に週に1回2時間はワンピースで練習するのを続けている。いや、こっちのほうは着るだけで、下はズボンのままだし、とても女装とはいえないけど。だってズボンを脱ぐのは本番にとっておきたいから。

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 隠し子の翔太は声が良い。さすがに両親の血を引いているだけのことはある。俺だけでなく、あの女も歌は声は奇麗だからな。
 そして、運の良いことに隠し子であることにあいつは気付いてないらしい。でなきゃ、翔太と母親を俺のところに遊びに来させたりしないだろうし、それどころか歌のレッスンと称して、しょっちゅう通わせることはない筈だ。お陰で、俺も存分に教えることができる。実の子ということで、こっちは気合いがはいるし、しかも翔太は俺のことを他人と思っているから、甘えることなくしっかり練習して帰る。まあ、俺だって、女に関してはいいい加減かもしれないけど、音楽だけは子供の頃から真面目だったからな。だからこそ女にモテたんだし、この分だと翔太は俺以上に女にモテるだろう。
 そして翔太の9歳の誕生日。あいつは、翔太の為に喫茶店を借り切りやがった。その話をあの女から聞いた俺は、元々はあの女だけの伴奏で済ませるつもりだったらしいところを、
「愛弟子のデビューだ。バックを受け持ちたい」
とボランティア志願した。俺の隠し子かも知れないと気付かれる危険も頭をよぎったが、そんな疑いがあったら始めから翔太の為に喫茶店借り切りなんてする筈が無いので大丈夫だ。
 案の定、奴はとっても感心して、打ち合わせの顔合わせの時に菓子折りを持って来たばかりか、制服の相談までしてきた。せっかくだから外国の有名な少年合唱団の制服を手に入れたいけど、入手先を知らないか、ということだった。こりゃもう親バカだ。翔太が俺の隠し子であるなんてバレたら一大事だな、と思いつつ、質問には
「ネットでも当たれよ」
と適当にアドバイスした。
 誕生会の成功で、翔太が俺の所にくる回数が増えた。俺のような隠し親には例外とも言えるだろう。世の中には息子の顔を週に2〜3回しか見ない父親もいるというが、それは同じ家に住んでいる贅沢だ。俺のように親子相伝の技術を伝えるには、会っても足りない。
 もっとも、しょっちょう会うデメリットもある。それは翔太の俺への尊敬が減っている気がするのだ。昔はキラキラした目で好奇心いっぱいに俺の言うことを100%信じてくれていたが、最近は、音楽素人のはずのあいつの言うことを真に受けることが多い。練習用コルセット? なんじゃ、それ。聞いたことないぞ。親バカの素人がどこかで聞きかじったデタラメを真にうけて実行しているんだろう。
 悔しいのは、そのデタラメを証明できないことだ。週に5回も練習していれば、そんなもの着ようが着るまいが上達するに決まっている。なのに翔太は素人のあいつを言うことを信じて、コルセットの効果で高音が上手くなったと思っている。そりゃ、もしかしたら効果があるかも知れないけど、上手くなった最大の理由は練習だろうが。
 とはいえ、そんな文句をつけるのは贅沢というものだろう。あいつは俺の隠し子に多くの投資をし、俺にいくらでも会わせてくれる。それが事実。あいつの鈍感と親バカに感謝だ。
 ただ、ちょっと心配もある。それは翔太に女装趣味が生まれないかってことだ。俺とて翔太に女の子視点の恋歌を結構歌わせたから、人の事は言えないが、ライブのサプライズとはいえ、息子に着せる為にワンピースを買う父親なんて世の中どこにもいないぞ。
 ともかくも、トリで翔太がいきなりワンピースで来たのにはびっくりして、翔太の将来を心配し始めたのだけど、その分、普段より上手かったのは事実で、俺は、俺の内心の不安を隠しつつ、翔太を褒めるのがやっとだった。翔少なくとも今日だけは翔太に俺の不安を感じさせたらいけないんだ。
 不安をライブ後に持ち越したわけだが、俺に言えることはあまりない。だって、ここで隠し子だとばらしたら、翔太は確実に不幸になる。せっかく、あいつが純粋に親バカで翔太のことを考えてくれているのだ。だから、ライブのあと、翔太が毎回の練習でセーラー服を着て、その後のコマーシャル録画では例のワンピースをわざわざ着て練習するようになったのに、俺は何も言えなかった。そればかりか、コマーシャル録画が終わった後も週一回のワンピースが続くのを止めることができなかった。
 セーラー服の下のズボンは時々キュロットに見える。ワンピースの時の翔太は輝いているように見える。真綿に締められるような不安とはこれのことだろうか。


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